私どもケーズエンジニアリングでは、トヨタ生産方式の考え方による改善コンサルティングを通じ、数多くの改善リーダーを育成するサポート活動をさせて頂いております。

改善エッセイ

第3話 「モノ」の見方について(3) -長期・短期-

2012年6月26日

 「想定外」が流行語大賞を取らなかったのは不思議なくらい2011年は「想定外」を方々で聞いた。ある会合では「専門家の発言は信用できない。想定外という前提が多すぎる。」という発言も聞いた。

 

 私も一応改善の専門家(?)であるが、私の前提は何だろう、と考える。

 「こうすれば効率が良くなって儲かります。」と私を含めた多くのコンサルタントは宣言する。この発言の前提は何か。

  市場が急に変化しなければ…

  想定外の震災が来なければ…

  石油等の素材、原料の急な変化が無ければ…

  この人々(作業者)の訓練がうまくゆき、退職しなければ…

等々の暗黙の前提があることに気づく。

まして、儲かる期間が1ヶ月か、6ヶ月続くか、1年か、5年間か、・・・これまた、暗黙の中にある。

 しかし、企業にとってみると、1ヶ月の効果よりも5年、10年と続く効果を期待する(ハズである)。

 

 1972~3年頃、鈴村さんが当時の関東自動車工業㈱深浦工場で改善の指導をした。その時彼は、「この工場の改善はその場限りの表面改善が多い。スタッフが取り繕った改善が多い。これでは1ヶ月もすれば元の木阿弥になる。やはり1年・2年と改善効果が出る様な、即ち“仕組みの改善”をやらねばならない。そのためには、ここで働く“作業者の魂”が入らないとダメだ。後は近藤、お前がやれ!」と怒鳴りながら宣言した。

一緒に聞いている部長、課長、工長(係長)、職長、皆ほとんど理解不能であった。

 「仕組みの改善」とは何だ?

 「作業者の魂を入れる」とはどういうことだ?

 

 「仕組みの改善」とはトヨタ語で、P.Fドラッカーの言うシステム改善、体制改善(structureの改善)と同じで、近藤流に定義すると、

 仕組みの改善=人の動きの改善+モノの動きの改善+情報の流れの改善+タイミングの改善

 を、これまで個々で捉えていたのを、1つの工程に於いて4つを一緒に考える

ことであるとした。

 これをライン全体、例えば原料投入から出荷まで、全体を通して考える。これが「仕組みの改善」というものだ。現在では「全体改善」と言われているものである。

 「作業者の魂」は鈴村流の「人間尊重」論であり、「作業者は金のみで働いているのではない。自分の人生を掛けている。だから作業者・スタッフが一緒になって改善することだ。」

 

 工程が狭い範囲での改善は、今日では「部分改善」と言われている。改善に慣れるために、改善の入門時にはよく行われているが、会社の利益には余り結びつかない。

 全体改善こそが会社の利益に結びつく。

 しかし、全体改善は、例えばpush型生産からpull型生産**に変更するとなると、改善期間が韓国L社の例では1年6カ月が必要であった。

経営者が1年半も結果を待つことに耐えられるかどうか。また、市場の今後の動向をどう読むか。  などが全体改善のベースとなる。

 

 私見ではあるが、全体改善は時間軸によって変化する(主として市場動向によって)ので、その変化に柔軟に対応する改善、即ち仕組みの改善がこれからも企業にとって基本の改善になるだろう。

 部分最適はその効果期間は1~2カ月と短期的であるのに対し、全体最適はその効果期間は数年続く長期的なものである。

 

 最後に安岡正篤先生の「観」方の3原則

  1.目先にとらわれず長い目で観る

  2.一面だけを見ずに、広く、深く、多面的に、全体を観る

  3.根本的に考案する、枝葉末節にこだわるな

 

(近藤 哲夫)

 

*push生産・・前工程から後工程に部品を押し込んでいく作り方、計画生産。

**pull生産・・後工程の要望に従って前工程が生産を開始する作り方、受注生産。

第2話 「モノ」の見方について(2)-バイアスを取る-

2012年6月12日

 

鈴村さんに教えを受け始めたのは、1971年の暮れの頃からである。彼は月に一度、当時私が居た関東自動車工業㈱東富士工場に来て、私の改善状況をチェックし、私も月に一度は大野さんに改善状況を説明していた。

 この頃の指摘はいつも「近藤、お前の頭はバイアスがかかっている。見るべきものを見ていない。」であった。

 大野さんの言う「白紙で見る」とは何か、鈴村さんに聞くと「それはバイアスを取ることだ」と言う。では、「バイアスを取るにはどうしたら良いか?」と聞くと、

 「そんなものは自分で探せ、自得しろ」と言う。

正に禅問答である。「禅は座るが我々は現場千遍だ。」これが鈴村哲学である。

 

 そんなある日、慶応大学工学部の川瀬ゼミをのぞいたら、川瀬先生がバイアスの分類を行っていた。

 《真実を報告するまでのバイアス分類》   

    

  -真実にかかるバイアス-

 

・個人的バイアス・・・・・個人の体験、注意力の限界、環境からの影響など

・主義によるバイアス・・・共産主義、社会主義、全体主義、市民主義によるなど

・観察によるバイアス・・・現象しか見ない、先入観によるもの、自覚しないで色眼鏡でみるなど

・立場によるバイアス・・・課長の立場、会社の立場、組合の立場など

 

  -その結果 報告に含まれてくるもの-

 

  ・実況報告(表面) ・錯覚注1 ・部分的事実 ・虚実 ・真実 

 

 私の場合バイアスを取るために、この頃から座禅、瞑想等を始めた。

 バイアスを0にするために何をすべきか?

「脳を空にして視る」ということは、脳に蓄積されている個人的バイアス、立場によるバイアスをまず否定してみる。そして「謙虚になって、現物・モノから教えてもらう」と、まず心に決めてから現場に入る。

 これが少し分かりはじめてから、多くの現場に入ることが楽しくなっていった。

 

(近藤 哲夫)

 

注1 2011年には“錯覚”が話題になった。 又「錯覚の科学」(The Invisible Gorilla)という本も出版された。

「見る」ことは時に錯覚もある。

錯覚については、第12話で触れる。

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