私どもケーズエンジニアリングでは、トヨタ生産方式の考え方による改善コンサルティングを通じ、数多くの改善リーダーを育成するサポート活動をさせて頂いております。

改善エッセイ

第69話 原発が信用されない理由

2015年3月24日

 先日、図書館に行った折りに畑村洋太郎さんの「危険不可視社会」(講談社)が目に入り、

特に第5章の原発が信用されない理由を読みふけった。

ふと気になってこの本の発行日を見ると2010年4月5日とあった。

てっきり2011年3月11日以降だと思って読んでいた。

2011年3月以前にこの内容の本を書かれた畑村さんに改めて敬意を表する次第である。

 実は私も原発は何重にも安全策が講じられて、原子炉は絶対にメルトダウンしない、ロシアのチェルノブイリとは技術レベルが違うという神話を信じていた。

 “原発反対”の声を地元の一部の人々の声であり、それは語呂が同じ原爆に似ているから反対しているというルーマーを信じていた。ゲンパツとゲンバクは確かに似ている。

ゲンバクは日本人なら誰でも反対するはずだ。

しかし原発と原爆では機構が全く異なる。

 今でこそ多くの人は原発は絶対安全デハナイことを知っているが、2011年3月以前にこのことを本に明確に説明した人を畑村さんを除いて私は知らない。

 

1.日本の原発の稼働率の低さは人々の不信感の裏返しに他ならない

これは原子力の運用方法に問題があることを意味する。ちなみにアメリカの稼動率は

90%、しかし1979年のスリーマイル島原発事故より約30年原発は一基も作ってい

ない。2010年オバマ大統領がジョージア原発を許可した。フランスも同じ90%、

日本では1990年代は80%であったが2000年代70%になり、2008年は

60%になった。

2007年7月の中越沖地震で柏崎刈場原発の7基すべてが停止した。

営業運転を再開したのは2009年12月で、2年5ヶ月間もストップしていた。

これは設備の破損がひどくて復旧作業が大変だったのではない

原子炉は無傷とはいえ、周辺部分の被害が出たことで社会の不安は高まり、周りの眼は一層厳しくなり、理解を得るのに時間が掛かったからである。

2015年1月現在、この3年間(2011年3月以降)日本の55基の原発は一基も動いていない。

周辺住民の理解を得るのには中々大変なことだと思う。

それは「ダマサレタ」というある種のウラミであろう。

「原子力は絶対安全です」というプロパガンダに多くの人はダマサレタ。

その拒否反応は強烈になるのは当然であろう。

「ダマサレタ」と言えば、昭和20年終戦後多くの大人から「ダマサレタ」の声を聞いた。

私は中学1年だったが先生がそう言い、英語、国語の教科書を黒く塗りつぶしたりした。

私は陸軍幼年学校を受験したが、ダマサレタという想いは無かった。

しかし昨日まで一億総玉砕と叫んだ先生が、今日は「ダマサレタ」と言うのもなんとなく変だなァ、と感じていたものである。

「絶対安全」なら何故東京湾のド真ん中に原発を作らなかったのか?

送電のよる放電ロスは相当小さくなるハズだ。

しかしテロ対策などで「多くの人が住んでいる場所に置くのは危ない」と考えたのではないか。

そうなら「絶対安全」を言えず「危険であることをまず認める」ことではないかと言う、

畑村さんの想いには全く同感である。

3.11以降、まずこの不信を無くすためにやることは「危険である。有害な放射性物質が外部に出てしまう」ことを素直に認めることにある。

これは全ての国民がまず認識することである。

その上で、電気代をより安くする方策を探っていくことであろう。

今日、原油の価格は低下している。今がチャンスである。

一方で、より安全性の高い原発開発を国家プロジェクトとして行うべきではないかと思う。

再生エネルギーはあくまで補完であってベースではない。(コスト高)

 

畑村さんによると日本人の原子力への不信感は世界の中で特に際立っている様であるらしい。

原子爆弾後遺症のせいかもしれない。

それにしても今日の電気料金は高くなっている。

私の様に1人暮らしで、月の半分は外に出ている人間で毎月一万円以上支払している。

電力会社は全部原価計算、故に停止している原子炉コストも全て電気料金にかかっている。

例えば柏崎刈場原発の停止コストは東京電力副社長の発表によれば、2007年1年分の

コストは6035億円の内、燃料費が4400億で約73%を占めている。

燃料コストが下落している今日、2月の電気代は少しは安くなるかも。

2007年の原油価格は調べていないが・・・。(P134)

 

2.安全性の実現手段

  今日の安全性は制御技術によって数多くの生業が行われている。

  制御技術とは簡単に言うと「センサー」などによる「検知」、その次にその検知量が

  予め決めた数値(閾値)を越えると「判断」し行動する様に機械に指示する。

  機械は予め決められた「動作」をする「アクチュエーター」によって指示通り動きをする。

  1960年代までの制御は機械的制御が中心だったが、1970年の中頃からマイコン

  がこの制御システムの中心になって今日に至っている。

  今日では社会の安全対策が「制御安全が中心」になっている。

  しかし、今日の事故の多くはこの「制御安全」の過信から発生している。

  自働ドアの事故、エレベーターの事故等は正にこの神話の過信から来ている。

     - マイコンは壊れます。

 

  畑村さんは制御安全中心から少し本質安全へと移すべきだとしている。

  例えば森ビルの回転ドアによる子供の死亡事故は天下部につけられた赤外線センサー

  が身長117cmの子供には機能しなかった。

  ドア重量は2.7トン、回転速度は78cm/s、実験結果、子供がドアに挟まれた時の

  衝撃は500Kを超えるもので、子供の致命傷を負う力100Kの5倍の力であった。

  本質安全とは500Kを軽くする為、重量を軽くするが、回転ドアの内側にもう1つ

  の入り口を設けて「逃げ」を造るとかで挟まれても安全を確保することにある。

  現在は軽いドア構造になっている。

 

3.安全性の向上は技術の発達

  JRが新幹線を造った時、全ての技術はすでに十分に使いこなされた、いわゆる枯れた

  技術の集積であったと言う。

 「新しい技術はコワクて(信頼性が無くて)使わなかった。」

  お陰で50年経過しても死亡事故につながる大きな車両事故は発生していない。

 

 多くの機械設備は大体200年でサチュレートして、失敗が0に近付く。

 例えばボイラー

 原発は50~60年。まだまだ事故多し。

   と、畑村さんは言っている。

 

(近藤 哲夫)

第68話 リーダーシップ

2015年3月10日

これまでエッセイでリーダーシップについて話をしたことはなかった。

 リーダーシップは経営学のテキストの定番であり、ドラッカーも何冊か書いている。

 ところが第67話で話した、ドラッカーの10年前の本を読んでいると、モントゴメリー

 イギリス陸軍将軍の話が出てきた。「第二次大戦でイギリス軍全体の指導者を選ぼうとし

 たとき、チャーチル首相は『モントゴメリーではダメだ』と却下した。」

 モントゴメリーは北アフリカ戦線でロンメルのドイツアフリカ軍団を撃破した国民的英雄

 であった。

 チャーチルは「自分の部下からしか信用されない人は信用できない。自分の部下から

信頼されるのは絶対条件だが、それだけでは不十分だ。」

 これを読んで、昨年読んだ『史上最大の決断』(野中郁次郎著、ダイヤモンド社)をもう

 1度読み返してみた。

 アイゼンハワーはモントゴメリーの上司だったが、「脇腹の棘」(P352)と称して好き

 にはなれなかったが、イギリスの国民的英雄として外すわけにはいかない。

 地上軍の第二軍令官に任命した。

 

 ドラッカーの言うリーダーシップの7つの条件は以下の通りである。

 ① カリスマ型の指導者はいらない

 ② 名経営者の共通点は「部下に信頼される人」

 ③ 信頼される経営者はマメな性格

 ④ リーダーは固定観念打破を

 ⑤ 何を達成したいかの強い目標を持つ人

 ⑥ ビジョンを共有させられる人

 ⑦  個人で動くのではなく組織で動くための仕組み(システム)を作れる人

 

1.アリストテレスのフロネシス

 野中さんは情報不足の中で最善の決断を下せる人物は一体何を具備しているのだろうか?

 の質問にアリストテレスの「フロネシス」に求めている。

 「フロネシス」とは日本語では「賢慮(PRUDENCE)」もしくは「実践的知恵(PRACTICAL

 WISDOM)」または「実践理性(PRACTICAL REASON)」と言われているが、野中さん

 等はこれを「実践知」と呼んだ。(P17)

 野中さん等の「実践知リーダーシップ」またはフロネテック リーダーシップは下の6個

 である。

  Ⅰ.「善い」目的を作る能力 :ギリシアの英雄ペリクレスの様な「共通善」に向かって

                                                      適時、適切な「判断」と「決断」

  Ⅱ.ありのままの現実を直観する能力

  Ⅲ.場をタイムリーに作る能力

  Ⅳ.直観の本質を物語る能力

  Ⅴ.物語を実現する能力(政治力)

  Ⅵ.実践知を組織する能力

 

  野中さん等は「大西洋憲章」宣言を行った、ルーズベルトとチャーチルはヒットラーに

  比べてはるかに人類の「共通善」(領土の非拡大、民族自決など)の目標を設定した、と

  している。

  第二次大戦はチャーチルとアイゼンハアーという「実践知」に素晴らしい能力を示した

  2人によって、連合国の勝利へと導かれたという。

  詳しくは本を参考にして下さい。

  この本は映画“LONGEST DAY”と共に読まれる事をお勧めする。

  映画ではフランスのノルマンディ地方の地図がでてこないので、例えばアメリカ陸軍

  101空挺師団が降りたったサント・メール・エグリースがどの辺にあるか、その教会

  がどこか(落下傘が教会の塔に引っかかってしまう)、またイギリスの第6空挺師団が

  降下したホルサ橋がどこにあるのかさっぱり分からなかった。

 フランスに滞在した折、ノルマンディに行ってみたい気持ちはあったがつい行きそびれ

 てしまった。

  この本を読んでみて、2回見た映画のシーンを思い出した。

 

2.アイゼンハウワーの実践知リーダーシップ

  私が知っているアイゼンハウワーは第34代アメリカ大統領で「沖縄まで来て日本本土に

上陸しなかった大統領」のイメージが強い。

またケネディがその後を継いだせいかアメリカでも「愛想が良く、落ち着いている。

逆に言えば優柔不断な所が多く、祖父の様なリーダー」で余り高く評価されていなかった

様だ。

ところが最近では「第三次世界大戦の勃発を未然に防いだ男」という再評価が行われてい

る様である。

映画の6月5日の午前にDディ(上陸日)を明日6月6日にするという決定に際し

「We’ll go 」のセリフだけは今でも覚えている。

 

この本の表紙の裏側にアイクの直筆の一枚の紙が写真として載っている。

それは6月4日に書いたものと思われる。

“If any blame or fault attaches to the attempt it is mine alone.”

“この作戦(オーバーロード作戦)がもし非難もしくは失敗するならば、すべて私1人の

 責任である。”

 何と素晴らしいことか。平凡にしてかつ偉大である。

 

ドラッカーは言っている。(P346)

カリスマが流行りである。いたるところで論じられている。

本も無数にある。だがカリスマ待望は政治的自殺願望である。  (中略)

重要なことはカリスマ性の有無ではない。正しい方向に導くか、間違った方向に導くか

である。  (中略)

第二次世界大戦で連合国を勝利に導いた軍人も、抜きんでて有能だが飛びぬけて面白

みのなかったアイゼンハウワーとマーシャルだった。

 

Ⅰ.善い目的を作る能力

 アイゼンハウワーの自著「ヨーロッパ十字軍」によると(P346)

 18世紀まで軍人とは傭兵を指した。戦争は言わばゲームであり、敵同士であっても憎し

 みの感情は無かった。  (中略)

 今度の戦争は違う。自分達は私利私欲を離れ、人類の幸福実現の為に立ちあがったの

 であり、人類の権利を侵害する悪とは絶対に妥協しないと誓ったのだ。

  私にとってこの戦争は十字軍の様に神聖な戦争となった。

 

  Ⅱ.ありのままの現実を直観する能力

   これは個々の現実から全体を直観する「暗黙知」である。

   アイゼンハウワーは良く現場を往来きしており、全体を「名詞形」-即ち静止状態-

   ではなく「動詞形」-即ちプロセスと時間経過-として捉えていた。(P348)

   Dディの決定にも単なるヒラメキやヤマカンではなく、4月からずっと気象チームの

   技術を試していたと言う。

 

  Ⅲ.場をタイムリーに作る能力

   場づくりこそアイゼンハウワーのもっとも得意とする所であった。明るい性格で、楽観主義

   で、人の話を聞くのが大好きで、アイクスマイルと呼ばれる底抜けの笑顔でチーム

   を上手くまとめた。

   連合軍をまとめて一致団結した1つのチームを作り上げようとした。

  「相互妥協の必要性と“国家的偏見”を捨てるよう熱心に説いた。このことはイギリス

   上層部との関係を除けば見事に成功を収めた。」

   (R.Wトンプソン 「Dディノルマンディ上陸作戦」)

 

Ⅳ.直観の本質を物語る能力

 アイクは歴史的物語(十字軍物語、ダンテの神曲など)を引用したり、物語を作る

 能力に長けていた。

 戦略は物語である。

 歴史的構想力には優れたものがあった。チャーチルには及ばなかったもののアイクも

 名文家の1人と言える。

「ヨーロッパ十字軍」は7週間できっちり自分の手で書きあげたと言う。

 

*直観とは経験によって状況を一瞬で理解すること。直感は合理的に説明出来る。

  経験がないのは単なるヒラメキ。ヒラメキは合理的に説明出来ない。(羽生名人)

 

Ⅴ.物語を実現する能力(政治力)

 アイクは 多くの人に「一肌脱ごう」と思わせる「人たらし」であった。

 それは構想した物語を実現するための大きな推進力となった。

 

リーダーシップとは「目標に向かって人々に影響を及ぼすプロセス」と広く定義すると、

人間の持つ社会的パワーの基盤は次の6つの力で構成される。(P357)

①合法力:組織から公式に与えられた権限に由来する力

②報償力:報酬を与える能力に由来する力

③強制力:処罰出来る能力に由来する力

④専門力:専門的知識や技能に由来する力

⑤親和力:互いの一体感に由来する力

⑥情報力:情報の量や質に由来する力

  この6つを統合したものが個人の持つ「政治力」と言える。

 

  Ⅵ.実践知を組織する能力

   ジャーナリストのジョン・ガンサーは(P361)

   「アイクの1つの著しい特徴は、信用の出来る人物には、全てを任せきってしまう点

    である。だから彼の部下は自分達の裁量で処理してしまう」

   「信」こそが組織化の基本である。

   その点多くの独裁者の失敗は部下を信用しなかったことにある。

 

  アイクは偉大なる普通の人と言える。

 

(近藤 哲夫)

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