私どもケーズエンジニアリングでは、トヨタ生産方式の考え方による改善コンサルティングを通じ、数多くの改善リーダーを育成するサポート活動をさせて頂いております。

改善エッセイ

第109話 AIまたはIA? (3)

2016年11月29日

1.What Singularity?

  一昨年頃からシンギュラリテ―と言う言葉がテレビや

  新聞、雑誌で言われる様に成って来た。

  日本語訳は「技術的特異点」(西部教授)というそうだが、

  数学、物理を学んだ人にとっては、始めての言葉ではない。

  その点を超えると急に発散したり、収斂する。

  その点のことをシンギュラリテ―と呼んでいる。

  これは温度の変化に対応して導体(電気的に)になったり、

  またそうで無くなる現象は物理の世界では数多く見受けられる。

  短い期間(short span)では連続に見えても、ロングスパンでは

  大きく断絶したり、またその逆も起きている。

 

  所が1年位前にNHKで見た番組は、2045年にシンギュラリテ―

  が起きるというものである。

  コンピューターの能力が人間以上になり、人間1人1人に指示、

  アドバイスする。

  正にノーバート ウィーナー(サイベネティックスの発案者)を

  始め、欧米の科学者の多くが、このシンギュラリテ―の存在に賛同する。

  人間は機械と同じだろうか?

  (ウィーナーは人間機械論(岩波)を発表した)

  機械に感情はあるのか?

  機械はクオリア(感覚質)を持っているのか?

  (クオリア:朝日を見て感動する喜びの事)

  生物は自律的(Autonomous)であるので、外からのある

  刺激に対する反応(アウトプット)は不明で予測出来ないが。

  機械は他律的(Heteronomous)であるので、外からのある

  インプットに対して完全に予測出来る。(誤作動は例外となる)

  機械が自律的になるのは「自我」を持つ為、戦争等は平気で行う

  様になる、正にSF(scientific fiction)の世界である。

 

  昭和23,4年頃、日本にもSFが流行した。

  私もハヤカワのSF文庫を結核で床に伏せながら読んだものだ。

  アシモフ、ハインライン、星新一は出たばかりであった。

  (小松左京はその後である)

  ◎日本人のロボット観と欧米のロボット観

  1970年代の後半、日本の自動車工業がアメリカの自動車工業を

  追い抜き、アメリカ国家は赤字続き、日本は無借金で大黒字、当然

  日本の各自動車会社は黒字であった。

  その頃、大勢のアメリカ調査団が日本を訪問し、日本の工場の生産性

  の高さに驚いたという。

  その頃、私は生産技術部に在籍していたが、フォードの調査団が来ると

  いうので東富士工場に呼ばれた。

  その時の質問は今も覚えている。

  1つは「日産はユニメートロボットを溶接工程に使っていて、その

          ロボットに太郎と名を付けている。トヨタ(関自工)はロボットを

          使用しないのか?」

  私の答え「塗装工程の下塗にはユニメートを使っている。

            しかしユニメートは価格が高い。1台1400万円(≒10万$)だ。

           溶接工程はまだまだ人間の智恵で簡易自働化できる。」

  2つ目「(私に向かって)あなたはアメリカの工科大学院を出たというが、

          貴方から見てアメリカの自動車工場の生産性を挙げる方法はあるか?」

  私の答え「(誇り高いアメリカ人らしくない質問に対し)私もはっきり言いたい。

            1つは人種差別を無くすこと。

            人は色によって、出所によって差別されるべきではないと思う。

            これはアメリカ建国の精神だと思う。

            そうすれば多能工化が可能だ。

            もう1つは人間の知恵、特に現場で働いている作業者の知恵

            を活用すべきだ、トヨタはこれを1950年フォードに実習

            した時に、suggestion boxを見て、日本でも提案箱として

            今でも活用している。

            改善のアイデアは機械に頼らず人間の知恵に頼るべきだ。」

 

  欧米のロボットについては警戒感が強い様だ。 西垣教授によれば

  「ユダヤ-キリスト教の考え方からすれば、宇宙の万物は、

    造物主である唯一神が造りたもうたものである。

    この神を模倣するものは。ゆるされぬ冒涜であり、

    宇宙秩序への挑戦である。

    大罪を犯した者は、やがて必ずひどい罰を受けることになる・・・」

 

  メアリー・シェリー作のフランケンシュタイン博士のエピソード、また

  「ロボット」に名を作ったカイル・チャックベル作の「R・U・R」

   も同様、やがてロボットは人間を滅亡の淵まで追い詰める。

 

   ユダヤ-キリスト教の宇宙秩序は、

   神が頂点に次が天使その次が人間、動物、植物、鉱物、人工物

   とランクが下がっていく。

   この秩序は永遠に変わらないとしている。

   上のものが下を支配するのは良いが、下位が上位を支配することは

   絶対に許されない。

   もしそうなればそれはカオス(混沌)である。

 

   ユダヤ-キリスト教者の多数の欧米人がpessimistic(悲観的)

   になるのは、やはり宗教が彼らの中で体質化しているからである、

   と西垣教授は言われているが、私もこの意見に同感である。

 

  日本のある大学教授が人間の顔(それも自分と全く同じ)のロボット

  を造った時、それがテレビに出た。

  私の友人の話では、ある外国人が“自分が造物主でもなったつもりか!”

  と半分怒り、半分泣きそうになった、という話を聞いたことがある。

  日本人は研究の為なら、別に問題はないと思う。

  しかし体に染みついた宗教上の教えはどうもこうも議論する余地はない。

  そうですかと言うしかない。

  ましてソニーが造ったロボット犬AIBOを行列して

  購入するのは日本人しかいないのではないか。

  (中国人、タイ人が購入しているのを見たことはある)

 

 (1)WEAK-AIとSTRONG-AI

  現在、囲碁、チェス、将棋、機械翻訳など用途が決まっている

  人工知能をWEAK(弱い)-AIまたはIAと呼ばれる。

  一方盛んに言われていて、SFなどに出てくる汎用人工知能(AGI)、

  更にそれを上回る超人工知能(ASI)はSTRONG(強い)-AI

  と呼ばれる。

  STRONG-AIはまだ地球上には存在しない。

 

  (2)なぜ2045年か?

  未来科学者のレイ・カーツワイルの次の信念(仮説と言うよりは信念)

  によると、

  ・「工学、技術は指数関数的に向上していく」と考えた。

    例えばムーアの法則

  ・コンピューターの1つの集積回路の半導体素子数は

    1年半ごとに倍になる。

  これになぞらえて、カールワイルは

  ・「生物の進化や文明の技術的進歩も同様にムーアの法則が働く」

    とした。

    これを

    「収穫加速の法則(Law of Accelerating Returns/LOAR)と呼んだ。

 

    *古典経済学では収穫逓減の法則(Law of Reducing Returns/LORR)がある。

      これは常識で分かる。

  同じ田圃を毎年肥料なしで米を植えると年々収穫が減ずる。

 

    収穫加速の法則をコンピューターに当てて、人間の脳の

    処理能力と比較すると、2045年に両方が合致すると言う。

    いずれにせよ、工学、技術が指数関数的に向上すると言うのは、

    仮説を通り越して、信念(又は妄想?)と言うほかない。

   

    なぜこの様な妄想がマスコミで取り上げられたか。

 

    それは「深層学習」により、パターン認識を攻撃する糸口が

    見つかったからである。

    カーツワイルは「リバースエンジニアリング」によって人間の脳を

    覗き、それをコンピューター上に完全再現出来るとしている。

    まだ実現していないが・・・。

    妄想だなァ。

    

   

(近藤哲夫)

第108話 AIまたはIA? (2)

2016年11月08日

 1.「行動の機械化、自動化」

  (原文は自動化のみであるが、私が機械化を追加した。

    自働化のみでは著者たちの言う問題は発生しない。)

 

  17世紀に発生したイギリスの産業革命(Industrial Revolution;IR)

  は、1700年に政府が発令した織物の輸入禁止令をきっかけに綿布

  の国産化が起きた。

  ところが国産製品は品質(この品質は製品品質)が劣悪、

  この改良のために多くのアルトンプルヌアにより、

  このイノベーション**の機会を駆使して、多くの発明と

  工場のシステム化***が実行された。

 

  綿布工程は次の通りである。

  A;綿花を摘む  B;ワイヤブラシで梳き上げる  C;束を揃える

  D;粗糸を撚り上げる(紡束) E;撚り糸を織る(紡織)

 

  Aはインド~輸入

  リバプール港から陸揚げマンチェスターへ。

  マンチェスターがIRの中心になる。

 

  能力不足はEで、1730年頃まで織物職人の手不足と品質劣化が続いた。

  次がD、工程の自動化が進められた。

 

  **イノベーションとは、シュムペーターによれば、

      ①新しい製品の導入

      ②新しい生産手段の導入

      ③新しいマーケットの発見

      ④新しい原料や半製品の導入

      ⑤新しい組織の導入

      及びこれらの組合せを言う。

  *アルトンプルヌアとは、これらイノベーションの機会

    を駆使して、既存の枠組みを破壊し、新しい価値を

    創っていく人である。

    従ってアルトンプルヌアは必ずしも起業家だけではない。

    企業の内にも存在する。

    発明家も同様アルトンプルヌアではない。

    その品物を商品化する人がむしろアルトンプルヌアである。

  ***主な発明は以下の通り、工場のシステム化はアークライトのみ。

    1733年 ジョン・ケイ 「飛び杼」の発明 (E工程)

               幅広い織物を1人でやれる様になる。

               職人の数は半分ですむ。

               更にスピードアップすると糸が不足する。(D工程)

               暴徒に襲われる。

    1738年 ジョン・ワイアット、ルイス・ボール

               (D工程)紡績機の発明、紡績=B+C+D

                これを自動化した。しかし故障多し。

    1768年 リチード・アークライト

               水力紡績機の発明。ジョン・ワイアットの紡績機改良。

               近代機械工場制度のスタート

               唯一のアントルプルヌア。

    1779年 サミエル・クロンプトン

               ミュール紡績機

    1784年 エドモンド・カートライト

               マンチェスターに紡績機400台規模の工場を建設。

               ワットの蒸気機関を動力に使う。

               (D)が(E)を上回る。

               イギリス紡糸輸出。

               1789年暴徒化した労働者に工場を焼き払われる。

 

   ◎動力:始めは人力、畜力 →水力(水車)→蒸気

  

   ◎機械、動力の合理化により解雇された労働者による暴力を受けたり、

     工場を焼き払われたりした。

     この時代の労働者は経営者が直接雇用するのではなく、

     職長が採用、解雇を行っていた。

     経営者は職長のみを採用した。

     会社が直接雇用するのは日本の紡績工場が最初である。

     労働者のストライキはもっと後代の話である。

     この時代はラッダイトのみである。

 

   ◎この合理化による解雇は、当時のイギリスの経済学者である

     リカードによれば一時的解雇であり、長期的、国家規模で観ると、

     この合理化は国家の発展に寄与するものであると是認された。

     正に一将成って万骨枯るである。

     解雇された本人にとってみるとタマラナイナァ。

 

    大野さんとこのことで話をした時、大野さんは

   「それは悪い合理化だなァ。」とひとこと言われた。

    昭和25年の大争議の時、1500人の解雇に対し

    2000人が応募したという。

    しかし溶接工程は外での仕事が多くあって、予定以上の人が

    したが、プレス工程は予定以下であったと言う。

    たまたま朝鮮戦争での米兵のトラック、ジープの修理の際、

    プレス工から溶接、塗装工へと大野さんは本人と話合って

    決められたという。

    これがトヨタの多能工化への始まりだったと言われた。

    「悪い」とは深い意味がある。

 

  ◎行動の機械化、自動化は一般にはモノ造りの現場、

    モノの分配、輸送の現場では、特に20世紀後半において

    実施されて来た。

    ところが21世紀に入ってホワイトカラーの改善が行われてくると、

    もう1つの機械化、自動化が行われる様になってきた。

    それが「学習の機械化、自動化」である。

   「学習」はコンピューターの進展と共に多くのソフトが開発された。

    最近では人間の脳と同じ様なパターン認識が可能なソフトが出来る

    様になった。

    これを「深層学習 Deep Learning」と呼ばれるものである。

    これについては別途説明する。

    なおDeepは「深い」という意味ではなく、

    「多段階」という意味である。

 

 

 2.「学習の機械化、自動化」

   (機械化を追加したのは私個人の判断である。

     もっと広く影響がある。)

   「行動の機械化、自動化」はブルーカラーやホワイトカラーの

    単純作業からの解放であった。

    それでも単純作業に慣れた労働者は、その機械を壊したり

    また発明者を暴行したり、また工場に火をつけたりした。

    現在の様なストライキ、サボタージュ、ソルダリングは

    やらなかった。

    21世紀の現在、コンピューターの大型化、高速化など

    スマートマシンの進化は「学習の自動化」であるため、

    知的労働者つまり専門領域のエキスパートや技術者、

    弁護士、医師、建築家、会計士などに大きな影響を

    及ぼすと言われている。

    これらの人々は過去の経験知(明在知)や法則、ルールを

    記憶している人々である。

    記憶はコンピューターの得意とする所である。

    「学習」とはこの場合、記憶(明在知)の蓄積に他ならない。

    詳しくは次章で述べるが、人間の思考もコンピューターを

    3つの論理回路、即ちAND(論理積)、OR(論理和)、

    NOT(否定)のシンプルな構成である。

    この3つの回路で殆どの演釈推論や数値計算は実行可能

    であることがブール代数(Boolean Algebra)が証明されている。

    (ブール代数は集合論の1つで、私も若い頃学んだが

      理解するのに難しかった)

   

  1980年代、コンピューターの汎用大型化(巨大な記憶装置、高速化)

  により「知識学習(Knowledge Engineering)が生まれた。

  これはエキスパートと呼ばれる人が替わるコンピューター アーキテクチャ

  としてエキスパート システムが生まれた。

 

  「学習」について、自分の古錆びた脳を呼びさましながら

  50~60年前の記憶をおぼろげながら述べましたが、

  9月10日のNHKニュース番組で若い女性アナウンサーが

  「・・・これはコンピューターが学習しています、ので大丈夫です・・・」

  としゃべったのには驚いた。

  コンピューターが学習するのは当たり前の常識として使われるのである。

  こちらは「なぜコンピューターが学習できるのか」を60年前の記憶を

  辿りながら苦労しているのに・・・。

  世の中は大分進歩しているのですネ。

  Old soldier never die only faded away?!

 

 

 3.認知テクノロジーの種類とその進化

    ②のダベンポートはP52に面白い表(表2-1)で説明している。

    縦軸に「行動能力」を取ると、

    A:数値分析

    B:言葉や画像の理解

    C:デジタル作業の進行(管理及び意志決定)

    D:物理的作業の遂行

 

  A・B・C・Dの順にホワイトカラーの仕事のレベルは高くなっている。

 

  横軸は「学習能力」である

  a:人間支援

  b:反復作業の自動化

  c:状況認識学習

  d:自己を認識した知性

 

  この順は知性のレベルを表す

 

  この2つの軸を組み合わせたのが具体的展開になる

  A-a   ・データの見える化

        ・仮説主導型の分析

  A-b   ・オペレーショナル分析、採点

        ・モデル管理

  A-c   ・機械学習  ニューラルネットワーク

  A-d   ・未開発

  B-a   ・文字や音声認識

  B-b   ・画像認識

        ・マシンビジョン

  B-c   ・ワトソン、自然言語処理

  B-d   ・未開発

  C-a   ・ビジネスプロセス管理

  C-b   ・ルールエンジン ロボテック

             ・プロセスオートメイション

  C-c   ・未開発

  C-d   ・未開発

  D-a   ・遠隔操作

  D-b   ・産業ロボット  協力ロボット

  D-c   ・完全に自立したロボット

                 自動運転車

  D-d   ・未開発

 

 

  この表はあくまでダベンポートの独断である。

  縦軸、横軸は納得させるものであるが、マスの中は

  人によって反論も出てくる。

  しかし彼が言いたいのは将来の発展の構造案の提示では

  なかったのかと思う。

  かくして「自己を認識した知性」を人類は作れるかどうか。

  その知性を人類はコントロール出来るかどうか。

  もし出来なければ人類にとってデストリピア(ユートピアの反対極)

  であり、2045年のシンギュラリティは現実のもととなる。

 

  その前にAIの発展の歴史の概略を述べる。

  AIの歴史は③の西垣先生の本による。

 

  AI=人工知能は1956年のダートマス会議から始まったと言われている。

  コンピューターはもともと「人間の様に思考する機械」を夢みて

  1940年代造られた。

  西垣先生はこの本で2人の天才をあげられている。

  1人はプロギラミング(データを1ステップずつ順番に論理処理する)の

  発明者であるイギリス人のアラン・チューリングであり、

  もう1人は案がリーからの亡命者で原爆開発の1人である

  フォン・ノイマンである。

  ノイマンはそれまでプログラムを1ステップずつ1つ1つ人間が

  入力していたものを、全てコンピューターにやれせる、いわゆる

  インライン化した人である。

  人間はカードまたはテープ、今日は直接キーボードによる

  投入をすれば良いことになる。

  私事であるが、私の大学の卒論はノイマンの

  Statisfical Decision Function(日本語約は未定)であった。

  非常に何回で数学辞典(岩波版)を引きながら日本語訳で行った。

  この頃Boole代数や集合論を学習させられた。

  今は言葉のみ覚えている。

 

  しかしこの時代コンピューターの能力ははるかに小さく、

  パズルを解いたり、オセロなどの簡易なゲームを解くだけであった。

 

  第2次AIブーム

  1980年代、この時代から日本はこのブームに参入した。

  前述した「知識工学」が米国スタンフォード大学を中心に起こり、

  その1人E.ファイゲンバウムによる「エキスパート システム」

  が提起された。

  日本でも「世界1にコンピューターを作る」という夢を通産省が

  挙げ、政官学一体で予算規模500億円の10年計画プロジェクト

  がスタートした。

  名は「第5世代コンピューター開発プロジェクト」である。

  (第1世代は真空管、第2はトランジスタ、第3は集積回路、

    第4は大規模集積回路、第5次は人間の言語を理解し、人間と

    コミュニケートしながら問題解決するコンピューターの実現であった)

  結果は大失敗。

  原因はインターネット、パソコン及びスマホによるオープン型の

  問題解決とは全く反対のクローズ型であったと言われている。

 

  第3次AIブーム

  2010年代半ば、それは「深層学習」によるパターン認識と

  統計処理の組合せである。

  この場合もビックデータ同様、「質よりも量」「因果関係よりも

  相関関係」と「当るも八卦」の話になる。

  まあ天気予報の確率と同じかと思えば気も休まる。

  従ってビックデータも「深層学習」もあくまで仮説推定(Abduction)

  であるということを忘れない様にすべきである。

  (もっとも最近のパターン認識は数百万もデータを集め、中には

    間違いも故意にいれて強靭性(Robustness)を高めている様だ)

  *論理にはこれ以外にも演釈法(Reduction)と帰納法(Induction)がある

  ◎「深層学習」とは何か

  パターン認識のための機械学習の一種で2つの特徴を持っている。

  1つはニューラルネット(神経細胞網)というモデルを用いている。

  人間の脳は数百億個以上のニューロン(神経細胞)がお互い

  シナプス経由で結合されている。

  シナプスはニューロン同士の結合強度を司る。

  例えば親兄弟の顔、声を忘れないのはシナプスが強くニューロン

  を結合しているからだと言われている。

  ニューラルネットはいくつかの層によって構成されている。

  1つの層には多くのノード(人工ニューロン)があり、

  それが其々のニューロンに対応している。

  ある層のノード群と隣接した層のノード群とはリンクによって

  連結されているが、これには重み係数がついている。

  重み係数の大きさはシナプスの強度に対応し、ニューロン同士

  の繋がりの強さを表す。

 

  人間の場合、「学習」によってシナプスの強度が変化し、

  記憶が作られる。

  同様にニューラルネットの「学習」においても、学習によって

  内部パラメーターの重み係数が調節されていく。

  2012年グーグルが発表した「グーグルの猫認識」は

  You Tubeからの1000万を超える動画から自動的に

  猫の顔を認識させた。

  Robustnessを強くするためにあえて猫でない顔も認識させたという。

  この場合は「特徴量設計の自動化」が行われ、「深層学習」の

  第2の特徴となった。

  これにより、前のパターン認識では「人間が特徴量を設計し、

  予めコンピューターに教えていた」のである。

  これが出来たのは「自己符号化 -Auto Encoding」という技術である。

  簡単に言えば出力パターンを元に入力パターンを比較し、

  その差を減らすよう内部パラメーターの調節を行うのである。

  これは数が少なくては必ずしも正解にはならない。

  1000万回も実行しないと、Robustnessは強くならない。

  これにはコンピューターの高速化、記憶容量の巨大化がないと出来ない。

  グーグルの「猫」の場合は、1000代のコンピューターを連結させて

  3日間走らせたと言う。

  問題は「猫」の場合、たまたま一致したが、人間社会で通用する

  概念(パターン)とコンピューターが深層学習で獲得する概念には

  ぴったり一致するとは限らない。

  深層学習においては大体合っているという感じで統計処理を行う。

  これを幾段階もかけて行う。

  大体合っているのは両方のデータの相関関係が高ければ大体OK

  いうことになる。

  その因果関係も調査せずに行うビックデータと同じである。

 

  最後に2016年9月7日の日経新聞に西垣名誉教授

  の論文があった。

  まとめとしてうまく出来ている。

 

  人工知能ブームの歴史

 

  第1次ブーム  1950~60

  (キーワード)論理

  (応用範囲) 小

             パズル、ゲームなど

  (誤りの可能性)なし

 

  第2次ブーム  1980

  (キーワード)知識

  (応用範囲)中

           エキスパートシステムなど

  (誤りの可能性)少ない

 

  第3次ブーム  2010~

  (キーワード)統計

  (応用範囲)大

           パターン認識

           機械翻訳など

  (誤りの可能性)あり

 

 

 

  まとめ

  今から60年位前、私が数理統計学を学んだ頃、

  データを集めるのに苦労した。

  そしてその解析の道具はソロバンとタイガー計算機であった。

  就職先も官庁か大学しかなく、統計学を専攻する人間は

  殆ど居なかった。

  今日とは正に正反対である。

  昔は少数のデータで丁寧に処理・解析したものだ。

  今は大量データが山ほどある。

  またいい加減なデータ処理が方々で目に付く。

  年寄りの愚痴になりそうなのでこの位にするが、一言いえば

  因果関係の不明なデータはたとえ相関係数は高くてもマユツバですヨ。

 

  (蛇足)

  「自動化」は人間に対し付加価値をもたらすかどうかわからない。

  「自働化」にすべし、は大野さんの言葉である。

  私もこの年になってこの3冊の本は何となく違和感を感じる様になった。

  机の上では「自動化」も「自働化」も同じなんだなァ-。

 

 

(近藤哲夫)

ページの先頭へ