第67話 ドラッカーさんが教えてくれた経営のウソとホント
2015年2月24日
年末書籍を整理したら、上記タイトルの本を見つけ、ついつい読みふけってしまった。
面白い本だった。
この本は10年前(2004年)に出版された。日経ビジネス編集者だった酒井綱一郎さんが
直接ドラッカーに3回面談して出来上がった本である。10年後の今日読んでも面白い。
1.イノベーションについての3つの誤解
この本は多くのページでイノベーションについての誤解を強調している。
(1)イノベーションは「技術革新」ではない。
「イノベーションは技術のことだけではない。ヒト、社会、組織、時代が絡み合った
社会的な言葉である。」
例えば1450年から1455年にかけてグーテンベルグが発明した印刷技術により
ルターの宗教革命が成功し、印刷に関わるコストも大幅に削減され、社会構造を変え
た。とドラッカーは言っている。
イノベーションを最初に定義したのはヨゼフ・シュンペーター(経済学者)である。
「イノベーションは企業家による新結合である」
これはドラッカーの言う「組織的活動」と同じである。別モノ同志をくっつけること
であり、そこには当然「創造的破壊」が生ずる。
(2)イノベーションは単なる思い付きではない。
1人のヒラメキがきっかけでも、組織的な活動として展開しなければイノベーション
にならない。
単なるヒラメキや思いつきは発明ではあっても、それが社会的変化を起こすことには
ならない。
(3)イノベーションは時代を画する壮大なものという意味ではない。身近な小さなこと
から始まる。
例えばクロネコヤマトの宅急便、パナソニックのナナメドラム式洗濯乾燥機、
パナソニックの二股ソケット、地下足袋、亀の子タワシなど。
そして、ドラッカーの有名な言葉として、
「イノベーションを引き起こしたアイデアの90%は外部からもたらされたものである」
外を見る事が如何に大切であるかである。
2.「カイゼン」を大切に
日本語の改善が英語もKAIZENになった。
アメリカではKAIZENは主として「品質改善」に使われ、トヨタ方式は
LEAN PRODUCTION SYSTEMと呼ばれている様だ。
MIT教授のピーター・センゲは日本に学び、『The Fifth Discipline』を出した。
5つの原則とは
1.自己マスタリー :自分をどの様に成長させたかの“統御”
2.メンタル・モデルの克服 :自分の心に固定化された概念を取り去る。
自分の固定化されたバカの壁から自由になる。
3.共通ビジョンの構築 :将来目標を決める。
4.チーム学習 :日本が最も優れているモノ
5.システム思考 :「森」を見よ。
この本は日本でも翻訳された。(1995年頃)
今日(2015年)でも十分参考になる。
日本的経営の強さは
まず部下を信頼し、
現場を強くしてQ、C、Dを的確に実行する。
ことにあると言われている。これが本当の強みである。
ところが終身雇用、企業内組合、年功序列が日本式経営の「三種の神器」と持てはやされ、
これらによって日本経済は成功した(1970~80年代)と言われていた。
しかし、ドラッカーはこれを否定する。
「日本経済を成功に導いた最大の要因は、低コストで賃金を使えたことと、裾野の広い
産業を持っていたことと、若い労働者を大量に使ったことと、個人がせっせと預金した
ことだ。」
1992年以後20年に亘る不況についても、ドラッカーは
「資本主義の通過する道だ。アメリカでも1980年代の10年間は長いトンネルを通り、
それまでとは異なる新しい経済体制に移行した。」
また、ネイスビッツ(メガトレンドの著者)は
「アメリカが1990年代になぜ復活したかを考える時、政府はナニモシナカッタから復
活した。また大企業もあまり努力しなかった。努力したのは中小企業だ。アメリカの輸出
の半分以上は19人以下の小企業によるものだ。」
日本でも今が中小企業のチャンスの時である。
中小企業こそ本当の日本的経営を身につける時が来ている。
3.組織をツールとして使う柔軟性が必要
ドラッカーは、
「1つの組織で全てが通用するという100年間信じられてきた常識が通用しなくなって
いる。地域、業界、市場、文化によって組織を変えていかねばならない時代に来ている
ことを胆に銘じるべきだ。」
全くその通りである。海外で仕事をすると国内とは大いに異なることを強く感じる。
組織の型はどうであれ、その土地、土地に合わせて再構築していくことが、そこでの成長
へとつながる。
4.今後日本で何をするか
若年労働人口は減少し続け、単純労働は発展途上国へと移っていく。これは多くの
資本主義国家がたどった道である。そして多くは、製造業国家からサービス業国家
へと変貌を遂げた、とドラッカーは言っている。
「アメリカの場合、過去40年間の間に製造に関わる労働コストは30%からその半分に
下がった。一方で生産量は3倍に増えている。」
これは生産性が飛躍的に向上したことを意味する。
アメリカには生産に特化した契約生産会社がある。
これは、仕事は製造業でも発注先から見ればサービス業である。
EMSのフォクスコンと同様である。
また、
「日本の精神構造は依然として製造業国家である。日本の製造業で働く人の割合は就業
者人口の3割位だ。これを10%台に落とさなくては本当の意味の競争力は獲得出来な
い。」とドラッカーは言っている。
2015年の今日、日本も多くの資本主義国がたどった道を行くとすれば、中小企業に
とって良いチャンスが到来したと思われる。行くべき方向は数多くある。
例えばドイツ、スイス、スウェーデンの様に専業で行くか、契約専門会社で行くか、
従来通り下請で行くか、いずれにせよ
従業員を信頼し、QCDに的確に対応する、
日本的経営を軸に。
ピーター・センゲの言う「絶えず学習し続ける組織」にしていかねば、このチャンスは
掴みえないだろう。
(近藤 哲夫)
第66話 誰の為の改革か? - 公平と効率の再考 -
2015年2月10日
2014年12月に行われた衆議院選挙は与党が2/3以上の議席を取って終了した。
選挙中は“岩盤規制の排除”とか“抜本的構造改革”とか“国民の生活改善”とか余りにも
抽象的で、しゃべっている人も充分に理解していなかったのではないか、と思われる。
“原発絶対反対”と叫ぶものだから、ついつい“電気料金の増加した分はその党で負担し
ろ”と言ったら、何と“福島がカワイソーダ”ときた。こちらは具体的に話をしたいのに
何の方策を持っていない党はすぐ感情論に訴えてくる。正に昔ヒットラー、スターリン、
毛沢東が行った政治行動そのものである。
即ち具体論に対し感情論でやり返すやり方である。
今日(1月4日、TBS)のテレビによれば、ル・ボンの書いた『群衆の行動』*では、
どうも7番目の“断言・反復に群衆は弱い”と正にヒトラーがやったのと同様に“原発反対”
と唱えておれば国民はバカだからついてくるとでも心の中では思っているのだろうか?
*TBSが選んだキーワードによればル・ボンは9個を示している。
1.群衆は感染する 6.国民の群衆化
2.群衆は時に暴走する 7.断言・反復に弱い
3.衝動に走りやすい 8.同一化する
4.暗示に弱い 9.服従する
5.群衆は時に特性のある行動をする
唯一「維新」の党が自分の身を削る提案をしている。
公務員の構造改革を行うのであれば -即ち小さな政府を造りたいの-であれば、当然低
給付、低負担であるべきである。
それにはまず国会議員への負担を「維新」の党の言う様にせめて1/3減位にしたらどうだろうか?
国会議員の源流はローマの元老院に始まると言われるが、当時は負担0であった。
それでは労働者階級から出られないということで負担が付いたと言われる。しかし、今日
中央に出たい人は例外を除いて支持者が居るはずである。その支持者が候補者をサポー
トすれば良いのではないか。
なぜ与党が2/3以上取ったのか。多くの議論があり、今後も続くものと思われる。
安部内閣も50%を超える支持率である。
日本国民は私を含めて“同一化”(8番目)してしまったのだろうか。
貴方が自民党に入れるのであれば私も・・・となったら次は危ない。
本当に自民党が素晴らしかったのか、それとも他に入れる党がいないから自民党に入れ
たのか。
それにしてももう少し具体論が欲しかった。
来年は消費税が10%になる。
そのための定率税率が討議されているが、もう一つは低所得者層への直接給付も検討の余地
があると思われる。
私も後期高齢者の1人であるが、選挙対策としての高齢者の高給付はボツボツ減少すべ
きであると思う。
現在の日本には多くの格差があるが、その中でも私が一番問題にしているのは、可処分
所得の世代間格差があることである。
世代間公平の為にも、高齢世代は協調しながら給付を減少させ、現役世代の負担を軽く
していくことではないかと思われる。
これを政党に言わせることは無理である。
やはり安部政権で実施すれば、長期的には日本のプライマリバランスは少しずつ良くなる
のではないかと期待している。
『効率と公平を問う』(小塩隆士著、日本評論社)によると、データは2009年度と少し古
いが日本の社会支出・国民負担率(対国民所得比)は、日本の国民負担率は38.6%
でアメリカの32.5%に次いで低い。スエーデンは59%、フランス61.1%である。
(社会支出は省略)
日本は低負担であるとすれば、これを現在の様に高給付にしてしまえばプライマリバラン
スが悪くなるのは当然である。
もし現行の給付を維持するとすれば高負担になり、必然的に大きな政府にならざるを得ない。
官僚国家にならざるを得ないだろう。
この本が面白いのは数多くあるが、P207の表は特に面白かった。
それは、衆議院選挙の時(2009年)の
有権者の構成比 投票者の構成比
60歳以上 31.6% 37.1%
20~39歳 33.9% 26.9%
これから2050年を推定すると
60歳以上 52.6% 54.3%
20~39歳 19.8% 16.0%
正にこれからは老人民主主義になってしまう。
今のうちに老人の投票制限(例えば75歳以上はナシとか)を決めておかないと
日本から若人が居なくなってしまう。
(2014年の投票はどうだろうか?)
更にこの本で面白いのは、民主主義は人口が増加しないと機能しないということである。
その生物学的限界として老人の数が若人より多くなった時、若人の提案は全て却下され、
老人優遇の提案のみが通過する。
日本はそれが2045年頃になるのではないかと推定される。
この時代、NHKのNEXT WORLDによると、働き者の多くは巨大な人工頭脳によって、
効率一本やりで働かされる様である。
政治は老人民主主義で、仕事は効率一本やりで働かされる若人を想像するだけで、日本
には住みたくないと思うだろう。
これからのNHK NEXT WORLDの続きが楽しみである。
改革も同じで効率一本やりではなく、その結果作業者をはじめ関係者のwelfareの両方
をバランスよくするのが真の改善といえるのではないか。
人口問題と言えば3100年頃今から1000年先だが、日本人が1人になるという推計は寂しいネエ。
早く老人民主主義を止めナイとイケナイナア。
(近藤 哲夫)