私どもケーズエンジニアリングでは、トヨタ生産方式の考え方による改善コンサルティングを通じ、数多くの改善リーダーを育成するサポート活動をさせて頂いております。

改善エッセイ

第7話 時間ドロボー ・・・時間ロスは最大のムダ

2012年8月28日

 昔、SFマガジンで小松左京による「時間ドロボー」なる小説を読んだ。中身は忘れたがタイトルは仕事柄覚えている。第6話の中での「動作のムダ」、「手待ちのムダ」は正に時間ロスによるムダである。

 1976~8年頃、カローラのモデルチェンジがあった。この時、オールトヨタとして生産準備期間(スタイル決定から量産スタートまでの期間)をこれまでの36ヶ月から24ヶ月にするという、約1年の期間短縮が発表された。これを行った最大の理由はライバルH社の新車投入情報によるものであった。当時ようやく使用を始めた型・治具設計用のSOFT(CAD)による設計の効率化、設計期間の短縮、型製作のライン化、現車型の治具(主として溶接治具)の改造、転用等生産技術部長兼プロジェクトリーダーとして、思いつくHARD、SOFTの改善、改良はほとんど実施した。それでもシミュレーションでは6カ月位しか短縮できない。

最大のネックは、生産技術部から工場への引き渡し期間の長さである。生産技術部は設計、開発、製作した型、治具、設備、機械のHARD、SOFT、標準類を1日も早く工場に引き渡したい。しかし、工場は過去にトラブルを起こした機械設計者のモノは中々受け取らない。

工場が早く受け取るためにも、新車情報を早く工場に流したい。当然、工場関係者は試作工場への立ち入りは禁止。

 どうしたらよいか。

その時、想い出したのは大野さんの指示によるリレー方式による改善である。

 スイミングのリレーは壁に泳者が手をついて、次の泳者が飛び込む。陸上のリレーはバトンタッチゾーンがあって、そこでバトンの受け渡しをする。

 当時の生産準備は正にスイミングのバトンタッチであった。

即ち、当時の状況は

  ①車の設計・試作・・12ヶ月

   試作がほぼOKになって

       ↓

  ②生産準備(型・治具設計、製作、トライ)・・12ヶ月

       ↓

  ③工場での量産のための準備、トライ・・12ヶ月

これで36ヶ月であった。

これを24ヶ月にするのに、この3つの大きなくくりを少しずつ重複させて前出しすることにあった。

改善案

  ①車の設計・試作・・12ヶ月

  この間に生産技術のメンバーは勿論、工場の決められたメンバーは

試作工場に入場可能にする。

  ②そして、生産準備+工場準備を残りの12ヶ月に収めるために

  其々のメンバーが一緒になって、プロジェクトを活動する。

 となれば、バトンタッチは24ヶ月内に可能になるハズだ。

 

 しかし、この体制に変更するには、まず、最初から工場の限定されたメンバーは試作工場、

工機工場への立ち入りをOKとする必要があった。試作工場、工機工場に入場を許された

メンバーの役割は新車、新型、新設備の問題点の摘出と作業指導票の作成など、問題の早出しを重点に行った。

 次に、ほぼ毎週1回のプロジェクトメンバーによる、設計、試作、実験、型治具製作、トライ状況の報告。

 最後は製造メンバーによる試作工場での生産。

これによりラインで行っていたトライアル(号口試作)期間を大幅に短縮でき、24ヶ月の生産準備を完了した。

 

 陸上のリレーの様にバトンタッチゾーンを併走して、バトンタッチを行うには、チームワークと訓練が無いと難しい。チームワークは、メンバーが毎日顔を合わせることが必要条件になる。

プロジェクトチームとして関係者を1か所に集めて推進したので上手くいったが、これを現在の組織で行うと、いわゆる「組織の壁」にぶつかり、調整が必要になり、リードタイムは長くなる。

 水泳のリレーと同様、各部・各課はそれぞれが懸命に働いている。しかし全体としてタイムが長くなる(リードタイムが長くなる)のは、部分最適の総和は必ずしも全体最適にならないことを示している。

 近年、L社の生産システムのPUSH方式からPULL方式への改善のお手伝いをした時、最大のネックはラインのセル化やコンピューターシステムの変更ではなく、工場と営業間の調整、特に営業の工場不信を払拭することであった。営業が工場を信頼して始めて、新システムは動き出すのである。

 時間ドロボーは人間(社会)の性(さが)か、部分最適も人間の性かと思うことしばしばである。

「モノ」は金に換算することにより、人間に「モノ」の価値を具体的に示してくれる。

 しかし、時間は金に換算することがあまりない。(企業では換算している場合もある、例えばアワーレート)従って、時間をドロボーされてもあまり気がつかない。例外は待たされる時だけである。

 時間を金に換算する場合は「空気」の換算と同じで大きい工夫が必要なようだ。

従来のやり方のHARD、SOFTを改善しただけでは大幅な効果はあまり期待できない。

 これまでのやり方や体制を変える、いわゆる仕組みの改善(ドラッカーや堺屋太一氏はSTRUCTUREの改善と呼んでいる)を実行しないと目標は達成しないし、また評価のモノサシも工夫が必要だ。

 

(近藤哲夫)

第6話 無駄の認識・・・・・・トヨタで考えていたムダと人間性尊重

2012年8月14日

 1971年の暮れ頃、大野さんに話を伺っていた時、大野さんが「仕事の内訳」についての絵を描いた。

それは、仕事とは「作業」と「ムダ」に分けられる。「作業」が大体半分ぐらいを占めて、その内「正味作業」と「付随作業」が半々。残りが「ムダ」であるというものだった。

そして次の様に話された。

「一般に現場作業はこの絵の様になっている。従って現場に入ったら、まずこの絵が描ける位現場をよく視ることだ。次に、人間なら(動物なら別だが)ムダを見つけたら、何とかしなければならないと思うはずだ。この人間しか持ってない想いこそが大切だ。私はこれを“人間性尊重”だと思う。3番目に付随作業(例えば、モデルチェンジ等の段取替え、清掃、準備など)も世の中では仕事の一部と考えているらしいが、私はこれはムダの一部だと考える(なぜならば付随作業は付加価値がつかないので)」

 「付随作業」をムダと明言された人は、当時私の知る限り日米を通じて初めてであった。

 しかし何よりも一番驚いたのは「人間性尊重」である。パスカルではないが、人は考える葦である、考えること、考えさせることを尊重する。これが人間性尊重である。

 この考えることの大切さは今日でもToyota Wayとして伝承されている。

( 第3話で話した「人間尊重」とはちょっと異なる。)

 

 また、大野さんはトヨタではムダを7つに分類していると言われた。

なぜ7つですかという私の問いに「人間は無くて7癖だから、7つ位にしたよ」との返答。

トヨタの7つのムダとは

①造り過ぎのムダ

 工場は勝手に注文もないのに造るナ!

 このムダは、他のムダを誘発し「そのムダを隠す」

②在庫・仕掛りのムダ

 在庫・仕掛りが多いと、他のムダを誘発し「そのムダを隠す」

 最近では、大災害が発生したためか、特にメディアでは無責任にも「トヨタカンバン方式は限界」との声を聞く。

それでは、何個持てば良いのか?と聞くとほとんど答えはない。(だから無責任!)

トヨタでもこれまで在庫は0とは言っていない。(はずである)

在庫0はタイミングを取るのが非常に難しい。各工程のラインバランスがうまく取れていて、しかも前・後工程のつなぎがスムーズでないと在庫0にはならない。

だから一般には、必要最小限の在庫レベルを決めている。

③加工そのもののムダ

加工の精度や工程の進みに、何の関係のない不必要な加工であり、例えば現物合わせや、不必要なバリ取りなどのムダである。

このムダは最近では直接部門では少なくなったが、間接部門ではまだまだ多い。部・課長さんは自分の廻りを見渡すとすぐ気がつくハズである。

④運搬のムダ

 運搬は必要な数量とタイミングで決まる。

「多く運べば安くなる」という迷信を未だに信じている人が多い。多く運ぶのではない、必要な数量をタイミング良く運ぶのが良い運搬である。最良の運搬は「運ばない」こと。

⑤動作のムダ

 これは作業中に付加価値を生まないや、機械の動きである。

 人の動きについて、100年位前にアメリカ人ギルブレス夫妻が、人の基本動作を18に分類した。サーブリックと言う。(ギルブレスの逆読み)この18の中で本当に付加価値を生み出すのはわずか3つである。人間の動作の中で本当に付加価値の付く動作は全体のおおよそ2~3%に過ぎない。

⑥手待ちのムダ

 これは待っている時間である。

 例えば自動機のそばに立って、見守っている時間である。

 日本ではこの手待ちのムダは少なくなってきたが、労働組合の強い国々ではまだまだ多い。

⑦不良、手直しのムダ

 手直しはムダである、という認識はまだまだ不足している。

 手直しは一時しのぎに過ぎない。部・課長自ら先頭に立って、根本原因を真剣になって追求しなければならない。

 その第1ステップはまず手直しをしない、すべて廃棄すること。この位の覚悟が欲しい。

 ある国でこの改善のお手伝いをしていた時、手直しというその国の言葉を止めて、

 Re-Workという英語にしたのには驚いた。

 

 ムダの原因になっているモノに「ムラ」と「ムリ」がある。

「ムラ」とは生産量が毎日不安定になり、作業者の入れ替えが激しく、結果品質をバラツ

カせ、原価のみを高める原因になる。

「ムリ」とは仕事に於いて、人や機械に過度の負荷が掛かることである。

その結果、人的災害や機械故障が発生し、原価を高める。

 

「ムダ」と「むだ」

この分類は鈴村喜久男さん(大野さんの一番弟子)の説である。

鈴村さんは「無駄」を2つに分類し、

 眼につき易い無駄=「ムダ」

眼につき難い無駄=「むだ」     と定義した。

「ムダ」は直接部門の現場でもよく見かける。一方「むだ」はシステムのむだ、組織のむだ、体制のむだ等々、じっくり視ないと中々理解できない。しかしこの「むだ」は「ムダ」の数倍から10倍以上の無駄であり、これを改善すれば多くの効果が生まれる。

 例えば最近話題の「二重行政のむだ」は正にこれである。しかしその中で仕事をしている人はほとんどそれが「むだ」と気がつかない。正に「空気」と同じである。

私の体験では、リードタイム短縮等で全体の体制を眺めていくうちに、ある日ハタと気がつくことがあった。これが「むだ」であり、その時「観」の眼とはこのことかと気付かされた。

 最後に一番大きい無駄は、「時間の無駄」である。

これについては次回にゆずる。

 

(近藤 哲夫)

 

 

ページの先頭へ