私どもケーズエンジニアリングでは、トヨタ生産方式の考え方による改善コンサルティングを通じ、数多くの改善リーダーを育成するサポート活動をさせて頂いております。

改善エッセイ

第37話 機械は本当に人間と入れ替われるか?(2)

2013年11月26日

 

  アメリカのNICが予測した2030年の中で「重要な3つの機械化の流れ」という項目がある。

  3つとは、

   1.ロボット

   2.自動運転技術

   3.3Dプリンター

  である。

 

  1のロボットについては、「単純労働者の仕事を浸食」と「サービス業への進出」と

  2030年を予測している。

  しかし、課題としては「技術向上とコストの削減」と「安全性の向上」を挙げている。

   私見としては、単純労働者の仕事を浸食するかどうかはロボットへの投資額と労賃の比較で決まる

  のではないかと思う。このコストパフォーマンスが1より高ければ、18世紀の産業革命が

  イギリスで発生した様に機械化、ロボット化が発生すると思う。

  それは正にロボットのコスト低減と開発途上国の賃金の上昇により、そのタイミングは決まる。

   ロボットのコスト低減については、現在(2013年)はロボットの性能向上がその開発の中心であるが、

  そのうち電気、自動車と同様に規格大量生産化されれば、コストは大幅に低下する。

  カスタマイズはその次のステップである。

   しかし、問題は「安全性」である。

  工場に於いては、例えばエリアセンサーで囲って、人間がそのエリアに入ると機械、設備が自動的に

  停止する様な方法が開発されている。

   しかし公共の場でのサービスについては、人間とロボットの共生は一段の配慮が必要になる。

   例えば、アイザック・アシモフのSF小説「アイロボット」に出てくる様に、人間を傷つけない等の

  ロボット3原則などソフトウェアの開発が望まれる。

   しかし、これは国家事業ではないと難しいのではないか?

 

   2の自動運転技術については、現在既に活用されている「無人偵察機」や鉱山で使われている

  「無人トレーラー」、工場で使われている「自動運搬機」などが2030年では、更に多くの場所で

  使われているだろうと予測している。

   今後の課題としては、「信頼性の向上」と「安全性向上」にあるとしている。

  いずれの自動運転機も機械である。機械であれば故障もするし、暴走もする。

  機械をコントロールする技術(保全技術やリスク管理技術など)の向上が望まれる。

  これによって「信頼性」は向上する。

  勿論ここでの信頼性は物的信頼性であるが、もう1つそれは企業そのものの信頼である。

  それを利用する人間が心に持つ信頼性(このエレベーターは大丈夫と思う心)も重要である。

  それは企業そのものの信頼である。

   「安全性」については、既に中東で発生している無人機による一般人への襲撃が

  遠隔地からボタンを押して射撃するので、ボタンを押す人にとってはテレビゲームの様なモノであると

  テレビの解説者は説明していた。しかし実際は人を殺すのである。

  一般人かゲリラかを判別し難いので無差別殺人を行うと言うのでは誠に腹立たしい。

   現在(2013年)、トヨタ、日産、ホンダ等の自動車メーカーは自動操縦車のテスト車を発表し、

  テレビを賑わしている。テストコースでは人間が少ないから大丈夫でも、人口密集地での導入は

  ロボットと同様難しい道のりだと思う。

 

   3の3Dプリンターは現在アメリカ、ドイツが国家事業として開発を推進している。

  日本も近いうちにこれに乗るものと思われる。

  確かに現在では試作品には使用されているが、量産には更に一段の技術の向上が望まれる。

  それには特に3Dプリンターの大幅なコストダウンと精度向上とスピードアップである。

   現在の3Dプリンター開発能力の実力は自動車を例に取れば、1950年代のロールスロイス車の

  様なもので、コストは高く、納期は長くなっている。

   2030年の予測は「大量生産に変わって3Dプリンターで生産される製品が市場に出回る可能性が

  ある」としている。

   最近出版された翻訳本の中に「現在の大量生産工場の1個に対し3Dプリンターを備えた町工場

  数千が誕生する」というものがあった。

  こうなれば多くの人が活性化し、明るく、楽しく、持っているモノは殆どが自分用にカスタマイズされた

  モノで囲まれている、車も、テレビも、冷蔵庫も、・・・

  こんな夢の様な時代になる?

 

  しかし、人間の尊厳はどうなっているのだろう?

  ロボット、自動運転、3Dプリンター、いずれも素晴らしい、技術者の心を揺さぶる。

   しかし、これらは多くの人間に奉仕するために生まれたものであって、一部の人間のために

  奉仕するものであってはならない。

  ましてや、ロボットを使う人と使われる人に差別があってはならない。朝出勤して、無人機を飛ばして、

  人を発見したらボタンを押して殺人を行い、夕方帰宅して家族と共に食事している姿をテレビで観るとなると、

  腹立たしく、人間の尊厳はどうなっているのだろうと思う。

   そのためには何らかの国際的な歯止めが必要になる。

  また、知る者と知らない者の差別を無くすためには、人間の持っている暗黙知を大切にし、

  更に向上し、そして形式知に変え、更に暗黙知として昇華していくプロセス、即ちSECIモデルのシステムを

  廻すことになると思う。(第36話参照)

   そのための人間1人1人の教育とトレーニングをいつまでも続けることはいうまでもない。

 

  (近藤 哲夫)

第36話 機械は本当に人間と入れ替われるか?(1)

2013年11月12日

 

  最近、新聞紙上に出ている活字に「雇用なき回復」という文字がある。

  日経新聞2013年8月15日版では、EUの「雇用なき回復」が言われている。

  EUの4~6月期のGDP成長率は+0.3、しかし失業率は10.9%(6月)である。

  特に南欧がひどい。

  (スペイン26.3%、イタリア12.1%の失業率)

  日本でも企業の景気動向は(+)に転じてはいる。(従って利益は増加する)

  しかしこれが 賃金や投資に回らず、内部留保になると、消費者物価指数が

  向上している所では、景気の腰折れが発生しかねない。

  求人は若干上向きだが、賃金の上昇はないと、好景気感は一時の幻想になってしまう。

 

  イギリスの経済学者リカードは、『GDPが増加すると、古い仕事は失われるが、

  新しい仕事が生まれるから雇用は増大する』という、

  いわゆるリカードモデルを発表した。(経済原論ではこれが説明されている)

  確かに、アメリカでは1901年には馬が325万頭もいて、主として運送と

  農耕に利用されていた。その23年後の1924年には、これが200万頭に減少した。

  この20数年間、アメリカは産業革命期にあり、運送や農耕は馬から蒸気機関や

  トラック及びトラクターに代替され、人間の雇用もそれなりに増加した。

  ところが、21世紀、アメリカではこのリカードモデルは成立しなくなっている。

  求人数は2000年の年初に対し、2010年の年初は(-)1.1%と減少している。

  1990年代の同様の比較では(+)19.7%、80年代は(+)20.2%であった。

   1人当たりGDPは、1975年を100とすると

                    1999年   170%

                    2005年   187%

                    2008年   183%

   と(+)成長している。

 

  Erik Brynjolfson  MIT教授とAndrew Macafee  MITビジネスセンター主任の

  共著である『機械との競争』(日経BP)を読むと、

  「技術(特にコンピューター)の進歩が早すぎて、人間がこれに適応できず、

  雇用が失われる。自動化が急速に進んでいる」

  という「雇用の喪失」が説明されている。

  この説は過去に於いてはケインズやレオンチェフ及びドラッカーによって

  述べられたものである。

  確かに規格化された大量生産工場では、大量のロボットを導入してきている。

  欧米及び日本で1970年代から導入が始まった。

  中国では21世紀の現在正に導入中である。

  しかし、二人の著者が言う様にこのままだと本当にロボットが人間と入れ替わるのか?

  人間は20世紀以前の様に多少のタイムラグはあっても、新しい仕事を生み出せないのか?

  コンピューターもロボットも自動機も機械である。

  機械であれば、必ずメンテナンスが必要である。

  ロボットをメンテするロボットを作る、そのメンテロボットは人間によって開発する

  ことはある程度可能であろう。しかしメンテロボットも機械である。

  とすれば、メンテロボットをメンテするロボット、・・・・・

  ある程度の所に行くと人間がメンテした方が得ということになるのではないか?

  となると、そこで開発はストップする。

 

  二人の著者はコンピューターと人間をその得意とする業務という観点から分類している。

    コンピューターの得意:ルーチン化している業務・作業、

                 計算作業、工場の自動化など

    人間の得意          :パターン認識、カン・コツ、創造性、ヒラメキ、

                             複雑なコミュニケーション、例えば営業、渉外、医療など

  パターン認識も多くのハードウェア、ソフトウェアの開発によって人間に

  近付きつつあると。例えば自動運転、自動翻訳、自動チェスなど。

 

  彼ら二人の考え方のベースには2つのルールがある。

  1つは、「ムーアの法則」はまず20年位は続くと仮定。

    ムーアの法則:「集積回路の密度は18ヶ月毎に倍増する」

  2つ目は「チェス盤の法則」:チェス盤64コマに、最初の1コマに米粒1粒、

  次のコマに2粒、その次はその倍2=4粒、その次は2=8粒と増加していく。

  これは指数関数の特徴で、最初は微々たるもので、人間の感覚ではあまり感じないが、

  中央の32コマは232≒20億粒になり、十分すぎるほど膨大になる。

  彼らはコンピューターの進化は現在32コマの中央付近になると仮定している。

 

  私が過去にロボット開発を手掛けた頃は、コンピューター制御、ロボット利用は

  生産技術者の大きな夢であった。それは人間の存在があって始めて可能であり、

  更に発展させるためのステップであって、人間に替わり得るものではなかった。

 

  人間の暗黙知は野中郁次郎教授のSECI(セキ)モデルの様なサイクルで進歩していく

  ものだと私は考える。

 

  SECI(セキ)モデルとは

  S 共同化(Socialization) 個人+個人                   暗黙知

  次に

  E 表出化(Externalization)個人→グループ           暗黙知→形式知

  次に

  C 連結化(Combination) グループ+グループ     形式知+形式知

  次に

  I 内面化(Internalization) 個人                           形式知→暗黙知

  次のStepで

  共同化へ

   ・

   ・

   ・

 

   Sは個人対個人の指導である。テキストは一般にはない。

   Eは個人がグループに指導する。一般にはマニアル、テキスト等のソフトがある。

   Cはグループとグループの連携である。一般には新しいハードウェアが生まれる。

   また暗黙知の認知も行われる。

   Iは個人の一般智またはヒラメキによって生まれる。この段階でレベルアップする。

 

  人間の認識(特にパターン認識)は、SECIモデルの様にスパイラルアップ

  していくものと私は考える。

  コンピューターやロボットは、E及びCの段階で生まれるものである。

  遠い将来、SFの世界ではロボットによるロボット開発が起こるかも知れないが、

  それはここ100年以内には起こりそうもないのではないか?

  (ロボットによる大規模戦争でも起きない限り、経済的に割に合わない)

 

  となると、人間の進歩に従ってコンピューターもロボットも進歩する。

  人間の英知に期待したい。

  人間は自分を殺すほど智慧はナイとは言えないのではないか。

 

  (近藤 哲夫)

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