私どもケーズエンジニアリングでは、トヨタ生産方式の考え方による改善コンサルティングを通じ、数多くの改善リーダーを育成するサポート活動をさせて頂いております。

改善エッセイ

第33話 2030年を見据えて(1)

2013年9月24日

  先日、上京の折りに本屋に立ち寄った所、「2030年世界はこう変わる」(講談社)

   という本を見つけた。これは アメリカの国家情報会議(NIC)が4年に1度作成し大統領

  に提出するものである。

  今回はその一部が公開された様だ。

  懐かしくなって手に取って見て、夢中で読んでしまった。

 

    今から50年前、その頃流行の長期計画造りが当時関東自動車でも実施される様になった。

  私がその担当になった。当然のことながら、セミナーにも出席し、需要予測についても

  トヨタグループの各社の企画室ともコンタクトを取った。

   グループ各社の長期計画のアウトプットは長期損益計算になる。

  あるとき副社長、室長を交えて討論した時、特に副社長から強く言われた事がある。

  「長期計画は長期損益計画ではない。会社の将来の方向性を決めて、今から何を実行して

  行くかを決めるモノである。従って、いくつかの条件を設定し、その検証を行うことが

  大切である。だから、いつ工場を造るか、いつ機械増設を行うかを決めるモノで

  損益計算はその一部に過ぎない。まず考えなさい。」

   時代は昭和30年代の後期、日本は行け、行け、ドンドンで、車は造れば売れる時代であった。

  「将来もこの様なモノだろう」と多くのサラリーマンが想っていたに違いない。

  私もそうだった。

  「5年の長期計画を考える場合、10年先の市場、その他の環境条件を考え、その条件のもとに

  いくつかのシミュレーションをしなさい。」

  と言われても、まず、仮説が無数にあって、絞り込めない。次にシミュレーションと言われても

  どうやるか分からない。

  英文のシミュレーションの本を取り寄せても、サッパリ分からない。

  シミュレーションという言葉は、工学関係では使われていた様だが、一般には余り使われていなかった。

  (副社長は東大工学部出身)私が留学したいと思う様になった動機の1つはシミュレーションなる

  言葉である。(1968年ジョージア工科大学でのシミュレーションの講義でGPSSを教えられたときは

  正に夢中でプログラムしたものだ。)

 

   2030年と言えば、17年後の世界である。世界がどう変化するか。

  若者には興味があるだろう。

  長期計画と言えば昨今のテレビで2025年を数多く視る。

  日本が超高齢化社会に入る年で、5人に1人が50歳以上になる年らしい。

  2025年の日本はどうなっているだろう?

  世界はどうか?中国、韓国は?

  NICはいくつかのシナリオを用意している。

  次回はそれについて話をしたい。

                                    

  (GPSS:General Purpose Simulation System  汎用シミュレーションシステム)

 

  (近藤 哲夫)

第32話 「あるべき姿」の効用

2013年9月10日

  1.「あるべき姿」とは

    先日、この「あるべき姿」について話をした所、色々な反応があった。

 

    1つの反応としては「あるべき姿」という日本語である。

    私の提案する「あるべき姿」とは、1960年代にトヨタの大野さん、鈴村さんという天才によって

   教えられた言葉である。

    即ち、「あるべき姿」とは「ある目的、目標を達成するためにリーダーが具体的な方向性である。」

    従って、

  ① 「あるべき姿」とは、部長、課長、プロジェクトリーダー等の「リーダー」

      という人間が持っている「あるべき姿」である。

      あくまでリーダーの「あるべき姿」である。

   ② 「ありたい姿」との違い

     「ありたい姿」という日本語がある。

     これとの違いは、

     ㋑「あるべき姿」は当時トヨタ自動車で使われていた。あるいはトヨタ独特の言葉かもしれない。

    ㋺「あるべき姿」は「リーダーのあるべき姿」である。

    ㋩「あるべき姿」は「リーダーの具体的方向性」である。「ありたい姿」の定義はよく解からない。

    ③ 「具体的方向性」とは

      ㋑まずチーム(又は部、課)全員が理解出来る様、具体的であること。

       抽象的では全員の活動の方向性がバラバラになる。「ガンバレ」は絶対ダメ

       まずはリーダー自身具体的に行動することである。

       勿論、数値目標は具体的方向性にならない

      「絶対に勝つ」ではなく、「あの丘を占領する(いつまでに)」と具体的に示すことである。

    ㋺「具体的方向性」とは「全体最適」であることである。

       即ち、お客様、近所の人々、従業員、株主等のステークホルダーに対してWIN-WIN

       の関係になることである。

    ㋩リーダーの役割は極論するとこの「あるべき姿」の設定のみである。

  (時々はフォローアップとしてメンバーの悩みを聞いてやることもある)

    ㊁目的、目標は通過点であることを理解する様になる。トヨタでは「あるべき姿」は進化する

  表現したことがある。

 

  ・「あるべき姿」という日本語はいつごろから使われていたのだろうか。

   あるとき、川端康成(1968年ノーベル文学賞を日本で初めて受賞)についての本を読んでいたら

  12世紀の明恵上人(1173年~1232年)の話があった。上人の遺訓に

  「あるべきよう~」という言葉があるのを知った。その言葉は、

 

  「我は後世をたすからんという者に非ず。

    ただ現世にまずあるべきようにてあらん

    という者なり」

 

  意訳すると、

  「私は死後極楽に行きたいと修行しているのではない。

    私の修行はこの現実の世界を毎日楽しく元気に、明るく、という気持ちで生活した

  思っている」

 

  私の意訳は    の部分が「あるべき姿」か「ありたい姿」かは不明であるが、

  「あるべきよう~」という言葉はすでに12世紀には使用されていた様だ。

 

     2つ目の反応としては、「あるべき姿の訓練」を受ける人についてである。

     結論としては「誰でも可能」である。

     但し、以下の条件が必要だ。

     ①現在「ある問題」に悩んでいる人

     ②現在「ある壁」にぶつかっている人

     この壁は色々壁がある。例えば「組織の壁」、「改善レベルの壁」等である。

     ③自己革新(PARADIGM CHANGE)したい人

     私の場合は①であった。具体的には後で述べる。

 

     ②について、一般的には(私の経験をもとに)例えば、「改善レベルの壁」では、

     トヨタ生産方式の講習会を受けて、5~6年改善活動に従事すると、殆どの人々が

   いわゆる「壁」にぶつかる。講習会で教えられるのは動作改善、作業改善、簡単な工程改善

   が主体である。これらはあくまで部分改善であって、ライン全体、工場全体、会社

   全体ではナイ

  所が、問題は、例えば物流改善とか、開発から量産開始までの期間を大幅に短縮する

  とか、ホワイトカラーの大幅短縮といった、組織間、会社間にまたがる問題、即ち全体を

  WIN-WINにする改善テーマが与えられる様になると、どうしたら良いかの改善

  レベルの壁が立ちはだかる。

 

  ③自己革新(PARADIGM CHANGE)したい人は多くの場合「悩んでいる人」である。

  自己革新=PARADIGM CHANGEとしたのはPARADIGM CHANGEは他人から強制

  されて出来るものではない。自分が、自発的に自ら行動しないと、即ち自己革新し

  ないと出来ないものである。人間はその位偉大なものである。

  たとえ独裁者と言えども、心の中までは強制出来ない。 

  「悩む人」こそ自己革新出来る

  禅語に「煩悩即菩薩」というのがある。

  「悩むからこそ知恵が出る」のである。

  人間はともすると「自分は正しい」とか「自分は良いのだ」と言った価値観に捕らわ

  れ易い。この価値観が悩みの元である。

  これは正に自分の頭に覆いかぶさっている「枠」なのである。

  西遊記の孫悟空の頭に付けられている鉄の輪、即ちこれが「枠」である、と仏教は説く。

  この鉄の輪を外すということは、自分の考え、価値観を大きく変えることであり

  それによって自由自在にモノを観ることが出来る様になり、良いアイデアが生まれると

  言われている。

 

  2.「あるべき姿」の効用

  全体改善の1つのTOOL、として有効である。

  全体改善は一般には全体を一望するのは難しい。

  しかし、イメージとしてクリアーに描くことが重要である。

  全体像の描き方として、フローチャート、概念図等が使用できる。

  具体的な改善として私が体験したのは、

   1)大幅なコスト低減

   2)大幅なリードタイム短縮

   3)大幅な投資の節減

   4)大幅な在庫低減

   5)ホワイトカラー改善

  等である。

  このほかにも例えば売上シェア―を一番にする等のテーマにも関係したことがある。

  会社全体の改善・改革にはひつようなTOOLの1つであることは間違えない。

 

  具体例

  1)大幅なコスト低減

   A. センチュリー車のモデルチェンジの時に総原価の1/3を低減(1971年末~)

  ・このときに初めて「あるべき姿」という言葉を聞いた。

  このときのトヨタ大形自動車センチュリーの総原価が1台当り300万円で

  オールトヨタで100万円の低減目標となった

  その内、私の担当プロジェクトは1台当り60万円低減目標であった。

  現在でも(最近もあったが)「あるべき姿」は1台当り60万円と勘違いする人々が非常に多い

  ・この時の「あるべき姿」とは1台当り60万円を達成する具体的方向性である。

  この時の具体的方向性は「混合」であった。

  センチュリーを他車の生産ラインに入れるという考え方である。

  結果は1台当り60万円が64万円になった。

 

  B.その後、1990何代にある食品会社でコストハーフを主要製品で実施した。

  主催者(リーダー):社長

  メンバー:主工場の課長以上、全社関係者全員

  コストの範囲:全部、例外なし

  期間:2ヶ月間、この間にマーケティングを全て実施

  ・具体的方向性:「安全」、「安心」、「協働」、「共用」

 

  2)大幅なリードタイム短縮

  カローラの生産準備期間の2/3短縮

  従来の生産準備期間    :36カ月

  目標とする生産準備期間:24ヶ月

  生産準備期間とは

  「新車のモデル上人からその車の量産ラインオフまでの期間」

  この間、新車の試作車製造、各種テスト、新設備、新設備、治工具の開発・製造

  テスト、新車のラインオフまでの作業訓練、治具修正を行う、即ち生産準備期間と言う。

 

  この期間短縮によるメリット

  ・競合車より早めの発売

  ・マーケットの状況に適切に対応

  デメリット

  ・期間短縮により各種テストでの不具合対応が不十分になる

  ・現場の作業訓練期間の短縮による不具合等の不良が増加する

 

  リーダーとしての方向性:「設備の大幅な共用」、「協働」

                                 「作業訓練時間を大幅に増加」(1人当り従来の1.3~1.5倍)

  結果:初期不良 ・・ほぼゼロ

          生産台数・・初期より月産2万台達成

 

  3) 大幅な投資の節減

  マークⅡワゴンの初期投資大幅低減-通常の1/10(1976年初~)

  第1次オイルショック(1973年末)後の初めてのモデルチェンジ。

  1974年の生産準備に当り、月産1500台、オイルショック以前の1/4~1/5。

  従って設備投資額は以前の1/10とする。(大野さん)

  生産技術部長としての私の方向性は「設備共用」、「自動化」、「設備の内製化」、

  「ロボット外注ゼロ」、「工場との協同作業」

 

  ・始めて生産準備の工場内製化を実施

  ・異車種との治具の共用化

 

  結果:工場―生産技術の協力なチームワークにより、 1/10の投資で完了。

         初期不良:工場の訓練の早期スタートにより殆どゼロ

         立ち上り6ヶ月後の月土生産量:1ヶ月当たり8400台

 

 

  以上3例を例示した者は、私がチームリーダーとして展開したものである。

  方向性は、「共有」:人、設備、治具の共有であった。

  従来兎角、タブー化された「非共有」を殆ど「共有化」した。

  自動車工場はスクラップアンドビルドが今まで基本の様だ。

  「車の型は多少は変わるが、なぜ設備は新品にするのか」

  が私の基本の考え方であった。1970年代以降、プレス技術の大幅な進展、自動化、

  ロボット化の大流行であった。材料の質も大幅に変化した。

  (例えば、スチール板の厚みは1.2mmから0.75 mmへと軽量、フレキシブルにな

  った。それでも基本技術はあまり変化していない。)

  それと、不良低減と安全確保のためには、工場をはじめ全社の関係者との「協働」

  「チームワーク」が必要条件になる。

  幸い私の体験した3つのプロジェクト共、サブリーダーが素晴らしく、良くチームを

  まとめてくれた。本当に感謝している。

  3人とも故人となったが、冥福を祈るのみである。

 

  (近藤 哲夫)

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