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改善エッセイ

第91話 10年後(2)

2016年2月24日

前回は教育問題を省略した。

 今回は「教育」について2人の著者の説を紹介します。

 1人目は元外交官の佐藤優さんである。

 佐藤さんの視点は面白い。

 例えば「裁判員制度は徴兵制の一里塚である」は

 一見ギョッとするが、説明を聞くと、ナルホド、

 その様な視点があったかと納得する。

 要するに日本国憲法が定めている「国民の義務」は

 以下の3つしかない。それ以外の義務はない。

 (また余り増やしたくない)

   ・勤労の義務

   ・納税の義務

   ・子供に教育を受けさせる義務

 それを罰則まで科して国民に命令する裁判員制度は事実上の

 徴用令になる。国民が裁判員制度に慣れてくると、次には

 災害時は徴用でも構わないことになる。

 だんだんエスカレートしてくると・・・。

 彼は裁判員制度の義務を憲法を改正して明記すべきと言う。

 ナルホド。

 

 ①教育の右肩下がり

  大学の学費の上昇。現在の国立大学の年間の学費50~60万円、

  慶応、早稲田の文系110~130万円。

  一方アメリカのハーバード、スタンフォード(2つとも私立大学)

  約400万円+生活費約120万円。

  日本でも5年後は300万円位になるかもしれません。

  となると、現在の子供の世代は親よりも低いレベルの教育しか

  受けられなくなるのではないか。

 (子供3人では給料が月100万円以上でないと苦しくなる)

  佐藤さんは、大学教育は原則無償(欧州の殆どとロシア)か

  低負担にすべきとしている。

  私は基本的には賛成。しかし数多くの脱落者の救済ももう一方

  では考えるべきだと思う。

  1つの案は地方の国立大学の充実である。何も東京ダケが良い

   大学があるとは限らない。

 

 ②「総合知」の欠如

  「総合知」とは様々な知識をお互いに関連付けて理解する力

   という様だ。

  個々の知識を有機的に関連付けて全体像を掴むことの様だ。

   これに対し「博識」とは細かな知識をたくさん持っている

   という事の様だ。

   

   明治以後、日本は欧米に追いつくため「記憶力」の良い若人を

   全国から集めた。そしてテストによって合否を決めた。

   これは現在でも発展途上国では同じことが行われている。

   韓国、中国、台湾、シンガポール等。

  「総合知」を向上させるには欧米では大学4年間

  (UNDER GRADUATE)専門は教えません。

  工学部でも同じ基本を教えます。何を教えるか。

  それはリベラルアート(古典、ギリシア、ローマの文字、科学)

  を教えます。大学院(GRADUATE)になって初めて専門を

  教えます。しかも教えるスピードは日本の3倍くらい早い。

  日本の官僚は一般に視野が狭いと言われるのは「総合知」の

  向上を余り学習されなかったことがその一因と言われている。

 

 「総合知」で思い出すのが、A.トインビーの「歴史観」である。

  満州事変(1931年)を ローマ時代のカルタゴにアナロジー

  を求めた。

 「日本はカルタゴと同じ轍を踏んだ。ローマが戦いを挑んだ様に

  (ポエニ戦争)、欧米は日本に戦争をしかけるだろう」と日本の

  友人に語ったと言う。

 

 「総合知」の育成は良き師につけば可能ではないかと思います。

  現在、表れている現象を過去にアナロガスしてどの様に意味

  づけるか。

  そして「眞」にどれほど近付けるかが鍵となるでしょう。

 

  2人目は上(かみ)昌広さんです。上さんは東京大学医科学研究所

  特任教授である。医療教育の問題点を指摘されている。

  ③医療提供者の数は西高東低(H24年)

  (ⅰ)人口10万人当たりの医師の数

       1位 徳島  2位 東京  3位 京都 ・・・

       46位 千葉  47位 茨城  48位 埼玉

  (ⅱ)総看護師(看護師+准看護士)の数

       やはり西高東低  四国、中国、九州、  東京は少ない

      

       看護師不足は医師不足異常に困難、しかも急務。

       求人倍率 九州1.7倍、愛知県4.1倍、関東2.2倍

 

   ◎医師不足が解消されない原因の1つ

     ・医師の既得権

     ・日本の近代化が医師の偏在を生む

       どこに医学部を作ったかで決まる

                -医師は出身大学の近くで開業する

       旧7帝大、旧6医科大、私大3、公立1 計17校

       内 東日本+北海道  5校

          西日本         12校

 

    提言:特に関東の自治体でまず大幅に看護師の定員を

              増加させる。これが超高齢化への対応の1つ。

         

  

(近藤哲夫)

第90話 10年後(1)

2016年2月09日

 1.昨今「戦後70年」という言葉が流行している。

 

   「もう70年経ったか」や「まだ70年か」は、  人により受け止め方が異なる。

また、NHKで国会中継を見ていて、国会議員の質問と応答は下手な漫才にも劣る。

質問も抽象的だが、答え方も真面目ではない。

特に女性の質問は「戦争の本当の事を知らないナァー」と私は感じた。

「戦争は怖い」ではない、「本当に命のやり取り」であると思う。

昭和20年3月18日(1945年)、始めて米軍の艦載機(ブラマン型戦闘機)

による空爆を鹿児島は受けた。

私が鹿児島県立第一鹿児島中学校(旧制)の入学通知を受け取ったばかりの頃である。

鹿児島はそれ以降毎日のように空爆を受けた。

6月18日の未明、大空襲があり、下宿先の人々と共に城山まで寝巻1つで逃げた。

この空襲で鹿児島市内の70%以上が焼失したと言われる。

その後軍事教練の行軍中に米軍の戦闘機に襲われ、行軍の先頭の数人が

犠牲になった。

その頃の指導は「敵機に襲われたら前へ逃げるな、横へ逃げよ」だった。

私は先頭の数列後であったので横に跳んで地面に伏せた。

その時、機銃のカタカタという乾いた音と砂煙りを見た時は本当に

「これでおしまい」と感じた。(怖いという感じは無かった)

終戦後も時々この時の夢を見て飛び起きたことがある。

 

その後の70年は正にアッと言う間だった。

私共、昭和1桁の最後の世代は、恵まれた世代だった様だ。

特に私は恵まれていた。

   いつ頃から変わったか?

それは人により、職業により数年のブレがある。

これについては後で述べてみたい。

1945年の70年前、1875年は明治7年である。

この年にロシアと樺太、千島交換を結んでいる。

樺太を日本は放棄する変わりに千島全体を日本領土にするというものである。

その70年後、日本は全部返せとは言わない、4島を返せと言い、ロシアは米国との

約束でロシア領となったと言う。

佐藤優さんによれば、

「帝国主義とは自国の利益を尊重し、国家と国民を守る為に外部からの搾取、収奪を

強めていく政策」の様である。

今日の国際政治は帝国主義的傾向を強めていると言える。

しかし、20世紀型の帝国主義と異なり21世紀型は「植民地を獲得しようとしない」。

その理由は、植民地を維持するのに厖大なコストが掛かるからだと佐藤さんは説く。

この理由は現代に始まったのではなく、中国は2000年前から冊封制度を造り、

時には属国と言い、時には自領土と言っていたのと同じである。

ベトナム、韓国、沖縄はこの冊封である。

いずれ中国の海軍力が強くなると「沖縄は自領土」と言い出すだろう。

(共産党政権が続いている限り)

 

2.「10年後」を考える

 

集英社新書  日本の大問題「10年後」を考える

サブタイトル 「本と新聞の大学」講義録

司会者として  一色清、 姜尚中

佐藤優さんをはじめ7人の方が講演している。

一色清さんは朝日新聞のコ―ディネイター

姜尚中さんは東大名誉教授

 

2015年から10年後を考えるのに、人により異なるのは当たり前である。

まずは9人の方々が「10年後」をどう考えるかを紹介し、私はどう考えるかを

述べることにする。

まず司会者の1人一色さんが「10年後」をどう考えているかを紹介します。

 

一色さんが考える「10年後」

・私達がどの様な社会を造るかにあたって、選択を 迫られる問題は何か。

    1つは「グローバル化」

    もう1つは「技術革新」

「グローバル化」は、超高齢化社会においては

  「ヒト、モノ、カネ」の海外からの移動は当然

  ・そのためには英語の公用語化法人税の軽減など

  ・副作用        移民問題マナーの問題宗教問題

                       グローバル化によるより激しい競争

                       「日本らしさ」はどこまで価値があるか    (例:水田風景)

技術革新は今後益々増加していく超高齢化社会を益々より豊かにしていく

       (より楽な老後)

 しかし、

 ・副作用              卵子凍結技術によって体外受精、代理出産が増加

                           その結果「家族とは何か」問われる

                            3Dプリンタの発達:1個生産、受注生産、カスタマイズ生産の増加

                           その結果覚せい剤も作られる

                           車の自動運転。その結果職業運転手(タクシー、  トラック)の膨大な失業

     など。

 技術革新の「歯止め」はどこか1人1人考える問題

 

姜さんが考える「10年後」

 ・昭和20年を折り返し点として前後70年を考える。

 ・この70年間は極めて安定した時代。

 ・ベルリンの壁の崩壊は突然に発生した。

   38度線は10年以内に崩壊する

   その時日本はどうする?

  (ベルリンの崩壊1989年)

ドル基軸は10年以内に崩壊する

  その時日本はどうする?

日本を変えた「10年」はいつか?

 一色さん ・1985~95の10年間

          ・1985 プラザ合意、円高不況360円→300円

          ・1991 バブル崩壊

          ・1995 IT元年

          ・1997 山一証券倒産

  姜さん  ・全く同感

          ・トマ・ピケティー「戦後の先進国の黄金時代は所得再分配が

             うまく行っていた極めてレアケース

          ・日本の高度成長はこのレアケースだと再認識する

          ・「一億総中流社会」はレアケース

  

   ・出生率 :フランスが出生率を向上させたのは「婚外子」の承認。

                     しかし日本では戸籍制度、相続関係が壁(姜)

                     戸籍は不用かどうか、これは保守派の大問題(一色)

   ・日本の教育(大学)

             文科省は「特化しろ」と言う考え(姜)

             一流の国際人はリベラルアーツを持っている(姜)

            文科等を無くすのは幅広い人材が出来難くなる(一色)

            「英語とIT」のみでは幅広い人材は出来ない(一色)

◎私見

  一色さんはジャーナリストだけあって、ポイントを掴んでいると思う。

  「グローバル化」については、紀文食品在職15年の内10年は 海外生活だったので、

 海外から見ると日本の人口を養っていく上では必然だったと思う。

TPPによって農業も畜産も競争社会に巻き込まれた。

しかしこれをチャンスと見るかどうかは個々人の考えである。

70年も国が保護してきたのである。

補助金づけにされて来た環境が次第に消えていくとすれば、後は自分がどうするか

各人の考えだと思う。

「技術革新」は今後とも進むと思うが、その新技術によって新しいマーケットを造り出せる

かどうかである。

「技術」は必ず収斂する。その時に更に新しい技術を造り出せるか、それはその企業の

教育制度によるものと考える。

それは過去に於いてソニー、ホンダ、トヨタ等、社内のやりたい人間にはやらせる

教育制度があったと言われている。

出る杭は打たない社風こそ大切

 

今後10年間を考える上で、過去の高度成長は2度とナイと考える思考(姜)には

大賛成である。

出生率1.8にもっていく方法の1つはフランスの様に「婚外子」を認める方法もあるが

抵抗は大きいだろう。

むしろ第三子以上産んだ女性を表彰することをやったらどうだろう?

それも毎月10万支給10年間とか?!

「教育」については次回ふれる。日本の教育は高い!    (アメリカも高いが)

ドル基軸は元に帰るのは当分ナイと思う。

というのは中国の1人当たりGDPが先進国並みになった頃、インド、アフリカなどが

どうなるかによる。

 

◎蛇足   TPPに中国を入れるか?

  中国は国有企業優先を止めない限り難しい。

  しかし、宋文洲さんのメルマガ286号によると、

「中国はやっと輸出、投資、製造に偏る構造からの  変革に差し掛かったところです。

中国の輸出依存体質を直すのは付加価値の低い製造業を淘汰させるしか方法はない。

中央政府は早くやりたいが、地方政府は雇用と税収を守るためにどうしても現状維持

になり、その結果、世界の工場となり、世界のゴミ捨て場になった。これを打開するため

にTPPに入るしか ない」と。

 現に中国政府はTPPを評価している。

もし中国が国有企業優先を止めて参入してくれば、東アジアはしばらくは平和に

なるだろう。

 

(近藤哲夫)

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