私どもケーズエンジニアリングでは、トヨタ生産方式の考え方による改善コンサルティングを通じ、数多くの改善リーダーを育成するサポート活動をさせて頂いております。

改善エッセイ

第87話 現場に出て感じる事(3)

2015年12月23日

 あるメッキ工場の改善発表会での事である。

 メッキ工場と言えば今から40年前、関東共豊会

 (トヨタの下請会社の関東エリヤのグループ)の

 改善被指導会社の1つである関東化成(株)で張課長と私とで改善の

 お手伝いをしていた。

 関東化成(株)は亡妻が勤務していた会社であり、

 仲人の森下さんが専務でもあった。

 オイルショック(S48、1973)によって会社は赤字になり、

 改善の目的は黒字化であった。

 私にとっては自動車の工程以外は始めてであった。

 大野さんからは黒字化と共に、その会社でその後も改善していく

 人財を育てよと言う事であった。

 

 「全工程を通じて工数を平準化して流す事」

 今回メッキ工場の現場を見て、一本のハンガーに約400の

 ボタン状の部品を取り外して、検査し、出荷用の箱に入れる

 作業の改善発表であった。

 この検査工数2名×日(1日に2名で外しながら検査する)の

 バランスを取る為に応援人員を出して改善した(?)というのであった。

 この発表を聞いて40年前の事を思い出した。

 当時、関東化成は例えば自動車バンパーは一本のハンガーに2人

 で4本取り付ける。メッキ後の取り外しも4本を2人で外していた。

 一本のハンガーに20個取り付ける部品は応援1名を追加する。

 自動車のメークの様なものは一本に600個、その場合は応援20人と

 言った具合、取り付け、取り外しに事務所の人の応援を受けていた。

 取り付けたモノは必ず取り外さねばならない。

 当時の自動車は生産の種類が増加し、混合生産と工数平準化のための

 ラインバランシングが必須であった。

 工数平準化とは混合生産でも1日の生産を最小の工数で

 (即ち最も少ない人数で)生産することである。

 その作業者は訓練を経験した人々で無ければ良い品質は保持できない。

 単なる取り付け、取り外す作業もその作業を行いながら検査するので、

 商品にキズを付けたり、破損したりすると不良品になったり、また

 それを知らずに出荷するとクレームとなる。

 従ってアルバイトを雇用してこの仕事を行わせるにも、

 スピードではなく、丁寧に作業することが重要であった。

 

 従って関東化成では一本のハンガーに同一種類ではなく

 数種類の製品を取りつけてメッキ出来ないか?

 いわゆる混合生産出来ないかが平準化のキーポイントになる。

 この話を関東化成に投げかけると笑われてしまった。(この素人が・・・)

 メッキの業界ではこれまでやったことが無いと拒絶されてしまった。

 そこで関東学院大学の教授に会って聞いた。

 そして、「業界ではこれまで行ったことは無いが、理論的には矛盾しない。

 特別なハンガーを製作して実験してみたら」とのアドバイスを受けた。

 この特殊ハンガー(別名1個ハンガー)を作って実験したのは

 この時の関東化成の改善リーダーだったH君である。

 大物部品の横にこの1個ハンガーをバーに掛けることで混合生産が

 可能になり、工数の平準化が可能になった。

 1個ハンガーはどこでも、事務所内でも取り付け、取り外し可能になった。

 H君の努力によって平準化が可能になった。

 現在日本の多くのメッキ工場でこの1個ハンガーを見かける。

 

 ところがこの工場では40年前の関東化成と同じことを改善発表会で

 発表しているのである。

 1個ハンガーは知っていても、それを工数平準化のために使うということ

 まで頭が回らない様だ。

 

 5WHYを口酸っぱく言っても“何故1個ハンガーを開発したか?”

 とは考えない様だ。

 発表を聞きながら、どうやったら伝わるか?を考えていた。

 最後にアドバイスしたのは

 「検査工数をいくら増加しても付加価値は付かず、従って会社には

  儲けにならないヨ。設けるためには別のこと、例えば混合生産を行う

   ことを考えた方が良い」と。

 人に伝えることは難しいナアー。大野さん、鈴村さんは何と言うかなア。

 

(近藤哲夫)

第86話 現場に出て感じる事(2)

2015年12月08日

 先日、埼玉県のあるプレス会社で研修会を行った。

その会社は中小企業としては海外進出も行っている企業であり、

社長が進取の精神に富む人で、プレス機も新しい機械を導入している。

従業員も現場通路を歩いていると必ず挨拶をしてくる。

現場は整理整頓が行き届いている。

にもかかわらず停止している機械も多かった。

仕事の波が大きいのを感じてしまう。

金融関係は景気が良くバブルに近い状況なのに、中小の工業関係は

未だに好景気の波はまだまだという印象を受ける。

その中でいくつか気付かされたことを書いてみる。

私の反省の弁の為でもある。

 

①試し打ちについて

プレス、インジェクション、鍛造では型をセットすると、

最初の2~3枚は不良品になる。この不良品を試し打ちと言って、

「これは現在の鋼板の材質、型精度ではどうしようもない不良品になる」

と半ば正当化された悪い慣行だった。

 

45、6年前私が大野さんの弟子になってしばらくした頃だった。

ある席上で大野さんが烈火のごとく怒った。

「プレスの試し打ちとは何だ!不良ではないか!

明日からその分だけプレス課長の給料から差引く!」

その後、型を少し温めたり、切り角の角度を少し変えたり、

また鉄鋼メーカーと相談して材質を変更したりして、

1年後にはいわゆる“試し打ち”はトヨタグループでは0になった。

“試し打ち”という言葉は廃語となったと思っていた。

 

ところがその言葉は生きていた。驚いた!

私がその試し打ち品を手に取ってみると殆どが良品である。

私が「現在の日本の鉄鋼メーカーは殆どが世界一の品質を誇っている。

あとは型の状況のみだ。試し打ちは不良だと認識して、

これを0にしようヨ、この工場なら出来る。」

とアドバイスした。

要は不良品と認識するかどうかである。

私はここに力点をおいて説明した。

考えて見ると、45年前にトヨタで改善した方法が未だに

日本の中小企業に伝わっていないとは?!

私共の努力不足を痛感した次第である。

 

②段取替え時間の短縮の協働作業について

今から42年前頃、トヨタでは6台のプレスラインを一斉に3分以内で

段取替えすることが大野さんの指示で行われた。(期間は3ヶ月)

6台のプレスのセットとは、1つの製品(例えばフロントドアアウター)

を造るのに、ブランキング(ふち切り)→絞り→曲げ切り→穴あけ

→側面穴あけ→側面切り の各工程を順次に仕事をする為、

プレスにそれぞれの型をセットすることである。

当然のことながら、工程間の移動は自動機(アイアンハンド)をセットする。

型やアイアンハンドは重量物であるため、通常は、ベテラン数人がチームを

作って手際良く進める。

これらのチーム作業によって97分の段取替え作業が

3ヶ月で3分に短縮されたのである。

金は余り掛けずに知恵だけの改善である。

これらのことはトヨタではオープンにしているので、多くの企業では

これをマネしていると思った。

ところが、ここの工場は1つの製品を造るのに4台の60トンプレスを

使用しているが、これをこのラインの担当者が1人で1台ずつ、また

工程間の移動も自動機を1個ずつセットしているのには驚いた!

型、自動機合計8台を1人でセットするのである。

私は工場長に「安全の面からも、チームを作ってグループで段取替えを

行った方が良いですヨ。」

とアドバイスした。

チームで段取替えするのは韓国のインジェクション工場でも実施している。

それなのに何故日本の中小企業に伝わっていないのか?

これも私共の努力不足を痛感した。

大野さん、鈴村さんの叱責が聞こえた気がした。

 

(近藤哲夫)

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