私どもケーズエンジニアリングでは、トヨタ生産方式の考え方による改善コンサルティングを通じ、数多くの改善リーダーを育成するサポート活動をさせて頂いております。

改善エッセイ

第93話 トヨタの「カタ」について

2016年3月22日

  『トヨタのカタ』というタイトルで日経BP社から出版された

  本を取って一気に読んでみた。

  著者マイク・ローザー MIKE ROTHER  稲垣公夫訳

  マイク・ローザーはドイツ ドルトムント工科大学客員研究員で

  コンサルタントとして現在ドイツとアメリカを往復しているとのこと。

 

  読んだ感想はドイツ人(?)らしく几帳面に、そして論理的に

  トヨタ方式を基礎から積み上げているのには感心した。

  私の知っているトヨタ方式はそれほど論理的ではなく、もっと

  融通のあるものだった。

  一方、これまでトヨタ以外の人々には中々理解できなかった、

  トヨタの思考の行動ルーティンとしての様式 -トヨタでは

  「あるべき姿」という暗黙知 -を初めて紹介したことは

  すごい事だと思う。

  彼はこの暗黙知を「ターゲット状態」と呼んだ。

 

  この暗黙知は「どの位先を読むか」でその利用方法が決まる。

  例えば2週間先または1カ月先を読む場合、具体的には

  生産計画であるが、その生産計画を文字通り「計画的」に

  進行する為に、いわゆる「その他の条件」を出来るだけ

  固定化する。その1つが生産個数と多種品の生産比率を

  その期間は一定にする「平準化」である。

  またモデルチェンジを機に生産ラインを一新しようとする場合、

  例えば4年後のラインの「あるべき姿」はどうかを検討すること

  になる。

  実は私が関東自動車工業に在籍している頃は、自分の仕事の一部で

  あったため、殆どルーティン化されており、それがトヨタの独特の

  「カタ」だとは気が付かなかった。

 

  また、私が紀文食品で担当したのは海外事業部で生産統括部であり、

  生産統括部の下に日本全国、北海道から沖縄までそれぞれのエリア

  で販売する、水産練製品の生産を行っていた。(全国で14工場)

   しかし最大の市場は首都圏である。

  そこには従業員500名の横浜工場があるが、そこの能力が市場に

  追いつかず、静岡工場、塩釜工場、石巻工場から日常的に生産支援を

  受けていた。

  受注は各エリアで、電話、ファックス、電送(テレックス)等

  で受けていた。

  首都圏は生産統括部が窓口で20数名の女子社員が朝早くから

  受注情報を受けていた。

  何しろ、イトーヨーカ堂、ダイエーグループ(当時)、イオングループ

  などの大型スーパーのほかに関東地方の中小スーパーから直接注文が入った。

  商品によって若干の差はあったが、傾向として商品別注文の数量は

  金曜日が最大で水曜日が最小であった。

  その差は2倍から4倍に達していた。

  土、日、月、火、水は横浜工場だけで受注に対応出来る。

  しかし、木、金のために他の工場に依頼しなければならない。

  問題は2点、

   1つは平準化できないか?

   2つは他工場への日常化している依頼を出来るだけ少なくしたい

 

  1つ目の問題は、自動車にない生鮮食品特有の「賞味期限」に阻まれた。

 何しろお客様の購買行動は「日付を見て買う」のである。

 従って各店頭は「日付の古いものから先に売りたい」のである。

 しかし、より大きな問題はトヨタにはトヨタ自販という日本最大の

 セールス調整期間がある。

 自動車も各エリヤ、各曜日によって販売数量はバラツクはずである。

 それを全国的に調整して、メーカーに対しては「平準化」して

 発注する体制は、残念ながら紀文にはなかったし、また

 魚肉練製品のマーケットも自動車に比べて少なすぎた。

 

 2つ目の問題は、「平準化」出来ないとなれば日常化している依頼を

 如何に最少にし、物流コストを如何に少なくするかである。

 これはそれから数年後、各工場の生産品目を全国的に見直して、

 そのエリアに合った生産を行うことで、物流コストを大幅に減少した。

 (拙著『トヨタ式ホワイトカラー革新』参照)

 

 紀文に入社して数ヶ月でトヨタの偉大さを初めて気付かされた。

 トヨタの中に居れば殆ど気付かないで過ごす。

 トヨタでは平準化が当たり前の世界である。

 紀文に入社してすぐに気付いたのは、工場長を始め、課長、係長

 組長、班長のいわゆる“管理者研修”が殆どゼロであることである。

 どうすれば品質は向上し、不良が低減するか、どうすれば工数低減と

 生産性向上になるかは全て経験と勘と度胸でやっていた。

 二言目には「車とカマボコは違う」の言い訳だけである。

 紀文はNPSの会員なので、先ずは課長クラスから研修に行かせ、

 品質、生産性向上のやり方、段取り改善等をやらせたのである。

 

 組長、班長クラスの“管理者研修”が工場の利益向上の鍵であるので、

 研修方法とテキストをどの様に作るかがポイントになる。

 トヨタの現場の管理者研修を参考にしながら自分で作り始めた。

 トヨタの現場の管理者研修は、

 新任班長研修

 新任組長研修    :これが現状弊社で行っている「現場リーダー研修」

                                 の元になっている。

  新任職長研修

  新任課長研修

  新任次長研修     と続く。

  その中身は、現場リーダークラスは徹底したトヨタ方式の研修である。

  課長クラスは将来経営者になった時の為の経営管理の研修で、

  殆ど外部講師に依る。

 

  外に出て本当に分かったのは、トヨタは「人を育てる」事に非常に

  熱心であるということである。

  多くの経済界のトップは「人財育成」「人は宝」と言われるが、

  その為の「育成投資」は少ないのではないか。

  講習会に出るだけでは「育成」にならない。

  それをフォローアップし、それを実際に体験させないと本当に体得しない。

  トヨタの現場リーダークラスはこれを徹底的に教え込まれている。

  そこから新しい暗黙知が生まれ、新しい改善が芽生える。

 

  しかし、これも私がトヨタの外に飛び出して初めて知ったことである。

  トヨタの中ではこれは当たり前で、殆どルーティン化している。

  自分の会社を中から見るのと外から見るのとではこんなに異なるものか

  と紀文に入社した頃はつくづく思った。

 

   マイク・ローザーは多少形式的ではあっても、それに近いことを

   述べているのには感心した。

 

   紀文で「ライン長研修テキスト」約1000頁が完成したのは

   私が退社する2年前である。

            

(近藤哲夫)

第92話 何が仕事に誇りを持たせ、モチベーションを維持向上させるか

2016年3月08日

  久しぶりにマーケティングで手ごたえのある本を読んだ。

  病院のベットの上で1日10時間以上も読み続けられたのは

  最近では珍しい。

  本の題名は“最高の仕事が出来る幸せな職場”日経BP

  ロン フリードマン著、月沢李歌子訳

  フリードマンはモチベーションを専門とする社会心理学者であり、

  オバマのリサーチチームのコンサルタントなど幅広に活動を

  行っている様である。

  素晴らしいのは推論が少なく、大学の発表論文によりデータを

  数多く持ってきて、これでもか、これでもかと追求していく

  所にある。

  データデースは当然アメリカである。

  従って、現在のアメリカは第三次産業全盛の時代であり、

  話の中心は第三次産業になる。ホワイトカラー中心になる。

  ホワイトカラーの生産性をどの様に維持向上させるかを

  アメリカの企業が取り組んでいるかは十分に面白い。

  日本でもすぐ目の前にこの問題が立ちはだかっている。

 

  モチベーションの維持向上は第三次産業だけではなく、

  アメリカでも(勿論日本でも)第三次産業にとっては

  緊急の課題であるはずである。

  しかし焦点は少しボケている様に私には思われた。

  日本でもアメリカでも、生産性向上は政策の基本で

  あるからである。

  その中で第11章の「従業員の誇りを育む」は

  全産業に共通するテーマである。

  良くまとめているのでそのまま列挙したい。

   『職場に誇りを抱いている従業員は忠誠心が強く、

   転職には関心が低いことが研究によって示されている。・・・

   従業員は同じ会社で長く働く程、事業についてより理解を深め、

   より価値ある貢献が出来る身体。・・・誇りを持っている人は、

   やる気を起こし、長時間あきらめずにタスクに取り組む様に

   なる。・・・誇りを抱く従業員は、組織全体が上手く機能する

   よう行動すると同時に、同僚に手を貸す傾向にある。』

   職場の誇りの実験(2009年)も紹介されているが省略する。

   いずれにせよ「誇り」を持たせ続けることで企業組織全体の

   モチベーションが向上し、生産性はその結果向上すると言う。

   しかし「誇り」は上手く育てられる訳ではない様である。

   政治団体やスポーツチーム等のメンバーに誇りを抱かせている

   ものは何か、そうした組織に共通するいくつかの特徴を知り、

   それぞれの要素がどの様に職場の「誇り」創出に役立っている

   かを見る事にする。

 

   第1の共通点  組織の未来や過去に、魅力的な「物語」がある

   第2の共通点  組織が他の組織と異なる。制服、言葉、行動など

   第3の共通点  組織が他社の人生をより良いものにする為に

                        役立っているか、社会貢献している。

   第4の共通点  メンバーの1人1人に、自分の貢献は価値がある

                        と感じさせることである。全てのメンバーが大切

                        であるという信念と、1人1人が自分が当事者で

                        あるという意識を持っている。

 

  「誇り」を上手く育て、肯定的で、達成指向の真正な誇りにする

  ためには「行動と成功の原因という確信」によってそれは生まれる

  という。全くその通りである。

  そうでないと(例えば自分の能力と見なすと)そこには自己愛の

  強い思い上がりしか残らない。

 

 「誇り」を向上させ続けるために現在のマネジャーがやるべき事として、

  ①従業員に「この会社はこの地域にこの様な社会貢献をしている」

    と絶えずPRすることで、従業員は自分の社会的地位が高まって

   いると感じさせ、誇りを育てることが出来る。

  ②未来だけでなく過去を見る

    組織の過去の偉業について深く理解することで、未来の

   「大きく達成困難な野心的目標」を示せば、従業員は懸命に努力する。

    どの様にして今が築かれたかを考える機会を与えれば、従業員は

    労働意欲を高め、更なる成功を収めることが示されている。

  ③当事者意識を育てる

    従業員を企業の名の裏に隠さず、貢献者としての役割を示して

    全面に押し出す。自惚れを助長するかも知れないが、それ以上に

    従業員はその製品によりつながりを感じ、成功した時には

    大きな誇りを抱く事が出来る。

   と提言している。

 

  この提言はアメリカに於いては当然である。

  ①は日本では最近企業としてのボランティアが行われて来ているが、

  アメリカの様な地域住民の1人としての地域貢献が当たり前の

  社会では至極当然の事である。

 

  ②については、日本でも一時期「○○年史」がブームになった

  ことがあった。

  最近では「愛社精神」は必ずしも肯定的ではないが、自社の栄光を

  知ることが一番近い「誇り」を持たせる方法ではないかと思う。

  ベテランが自社の過去の栄光を後輩に語り、後輩は自分の仲間

  及び更に後輩に語り継がれる時、そこに自社への「誇り」が生まれ、

  「愛社精神」が生まれ、モチベーションが更に向上し、

  結果生産性は向上し続ける。

  ベテランのやるべき今すぐの仕事は「過去の栄光の物語り」である。

 

  ③現在の大量生産の時代では作業者名を部品に刻印するのは余り

  流行していないが、小量(又は1個生産)の場合、例えばクランクシャフト

  の仕上げ完了後に作業者名を刻印したと言われている。

   「私が品質を100%保証します」と。

   21世紀は少量限量生産の時代、その時代の品質100%保証の

  方法としては、作業者の当事者意識を高め、より強い品質意識を

  保持するためにこのやり方がある。

 

(近藤哲夫)

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