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改善エッセイ

第57話 歴史を地球規模で観る(2) イアン・モリス

2014年9月30日

 1.何を測定すべきか?

   目的は「なぜ今日西洋が世界を支配しているか?」を解明することである。

   従来の長期固定論や偶発論ではなく、より明確な形でストーリーを展開出来ないだろう

   か?

  それには数値化とグラフ化であるとモリス博士は考えた。

  数値化、点数化は個々の文化の特異性をかくしてしまう、と多くの歴史学者から反対

  された様であるが。

  数値化は単純でなければ第3者に理解しがたいので、国連の「人間開発指数(HDI)

  の様に変数を4個とした。

 *HDIは平均余命、平均教育レベル(識字率と就学率)、平均所得の3つである。

 

モリス博士の数式は

社会発展指数(SDI)=物事を成し遂げるためのコミュニティーの尺度

即ち技術的、物質的、組織的、文化的成果の集積である。

   そのコミュニティーで人は衣食住の生活を行い、周囲の世界に説明し、コミュニティー

   内の紛争を解決し、コミュニティー間の紛争も解決する。

   従って時代を超えた判断は絶対に下さない。

(現在が昔より快適だから今の人は昔の人より賢いとか運がいいとか幸せという判断は

しない。)

選択する4つの特性は以下の常識的基準を満足しなければならない。

  ①関連性           :社会発展に関係がある

  ②文化からの独立性 :文化の評価は難しい

  ③特性相互の独立性 :交互作用があると解析が難しい

  ④入手可能な記録がある

  ⑤信頼性           :専門化のある程度の同意

  ⑥簡便性

 

2.4つの特性

A:「エネルギー獲得量」のインデックス

    1日1人当たりの生きていく最低エネルギー〈食料〉は2千カロリー

    加えて住宅、商業、工業、農業、輸送のエネルギーを消費する。

    現代の西洋人の1日の総エネルギー獲得量は228千カロリー

    これを250点とした(1千カロリー≒1.09≒1.1)

    2000年次の西洋人の1日当たりの総カロリーは210千カロリー

    これは230店

    2000年次の東洋人(日本人が代表)104千カロリー≒104点

 

           年                         西洋            東洋

     1800(産業革命期)          38点          36点

     1500                        27点          30点

       600                        26点          27点

     紀元1年                        31点          27点

   前1000年                      20点          17点

   前2000年                      17点          11点

   前5000年                        8点          6.5点

   前14000年                      4点            4点

 

B:「都市化」のインデックス

   例えば1000万人を支える為に驚くべき「組織力」が必要になる。

   食料流入、水、廃棄物処理、火災の消火、仕事を与え、法と秩序を維持する。

   社会科学者は組織力の大まかな指針として「都市化」を用いている。

 

   モリス博士の比較のために、その時代の東西の最大都市を選んでいる。

 

                             西                             東

     2000年     NY  16,700千人           東京 26,700千人

     1000年     コルドバ   200千人           開封    1,000千人

       紀元1年     ローマ 1,000千人           長安        500千人

     前500年    バビロン    150千人           洛陽          80千人

    計算は2000年東京を250点とした。NYは156.37である。

 

C:「情報技術」のインデックス

   情報技術能力を「読み」「書き」の能力としている。

   人間集団を   上級  :複雑な文章の読み、書きが出来る。

                中級  :単純な文章の読み、書きが出来る。

                基礎  :名前の読み、書きが出来る。

   次に男、女について、1900年次西洋では男女とも教育を受けていたが、

   東洋は25%程度とした。

  コミュニケーションツールの利用について、ブロードバンド,CIT等の利用については

  2000年に西洋2.5の乗数を掛け、東洋は1.89を掛けた。

  この数値の出所は不明である。

  結果Cは、

                        西洋               東洋

  2000年           250             189

   1900年           3.19           0.3

   1500年           0.09           0.06

   1000年           0.02           0.02(1100年)

 前1100年           0.01           0.01

   になっている。

   2000年の西洋を250としている。

 

D:「戦争遂行力」

   2000年の西洋の軍事力は最高である。

      米中の軍事費       10:1

      米中の機動部隊     11:0

      米中の核弾頭       26:1    など

      全体として 西250点 、東12.5点

 

まとめ

   モリス博士は、

   2000年のSDI到着可能上限を1000とし、各ファクターに等分に配分している。

   即ち250点づつ。

   従って

      (ある時の)SDI=〈その時の〉(A+B+C+D)

   になる。

 

3.いつどこを測定するか

    過去はゆっくり動いていたのではないかと推定し、以下の様な変動する区間とした。

    (区間内は同じとみた)

     前14000年~前4000年     この間は1000年毎に区切る

       前4000年~前2500年     この間は500年毎に区切る

       前2500年~前1500年     この間は250年毎に区切る

       前1400年~2000年       この間は100年毎に区切る

    とした。

 

   どこを測定するか。

    コア そのものが時間と共に移動している、が東西コアを比較している。

                                      西洋コア                                                                      東洋コア

前11000年         イラク、エジプト         

         ~                          ギリシア                       

(前250~後250)    (ローマ)                                                                 前8000年

         ~

後1400年    西ヨーロッパ、イギリス

      ~                         フランス、スペイン                    ~                          黄河と長江の間

                                オランダ、ベルギー         

後1800年                                                        後1800年

      ~                          イギリス                                      ~                       黄河と長江の間

1900年                                                                1900年                        日本

      ~                        アメリカ                                        ~                           中国沿海部

  2000年                                                             2000年                     日本、 韓国

   

〇感想

  4つのファクターの良否は私には門外のことである。

  しかし分析方向については、若干の誤差はあったとしては十分理解可能であった。

  ただ誤差については10%以内だろうと説明しているが、それが正しいかどうか。

  いずれにせよ、数値によって西洋の支配が先天的に神より与えられたという長期固定

論は成立しないことも理解出来たし、また現在のChinaはピテカントロプス・エレクトスの末裔ではなく、同じ人間であることも充分理解出来る。

欧米人に多い長期固定論に対し、同じ欧米人が反論したのは全く楽しい限りだ。

 「西洋の支配 1773年~2103年 ここに眠る」は本当に発生する?

 その時中国、インドの民とアジアの民 40数億人のエネルギーは大丈夫かな?

  

・SDIの値 (グラフより読みとる)      *第3の分岐は2103年

年代

西洋

東洋

年代

西洋

東洋

備考

BC14000

4.3

4.3

AD300

40

32

 

BC11000

5.8

4.3

AD500

35

33

 

BC8000

6.3

5.0

AD550

34

34

第1分岐

BC5000

8.0

6.8

AD1000

30

42

 

BC1000

22

18

AD1500

33

38

 

BC500

25

22

AD1750

46

46

第2分岐

BC1

43

34

AD1900

180

80

 

 

 

 

AD2000

900

600

 

 

(近藤 哲夫)

第56話 歴史を地球規模で観る(1) イアン・モリス

2014年9月09日

 久しぶりで熱中した本に出会った。全く夢中で読んだ。タイトルは、

      『Why The West Rule ・・・For Now』    IAN MORRIS

日本語訳は  『人類5万年 文明の興亡 上、下』 北側知子訳、筑摩書房

               ― なぜ西洋が世界を支配しているか ―

上、下2巻の本であるが、翻訳が上手いせいか800ページをあっと言う間に読めた。

 

 モリス博士はスタンフォード大学の歴史学教授でイギリス生まれである。

イギリス人らしくユーモアが至る所にある。

 また、従来の歴史はヘロドトス、司馬遷以来いわゆる「英雄の歴史」である。

多くの歴史書は高さ0~2mの範囲で「英雄」を観て画いている。

所が、この本は英雄の名が出てくるのは、例えばアレクサンドロスは1桁~2桁である。

カエサルに至ってはわずか半桁である。

ちょうど数万メートルの上空から地球をまるごと観ている感じである。

本人も「あたかもチェーンソーで彫刻している様なモノ」と言っている。

すべて数万メートルかと思うと、時には地上数メートルという超低空飛行もあるので面白い。

 私流の解釈では、四次元連続体の地球を「巨大な森に喩えて、それを丸ごと観ている、

(全体構造を観ている)だけでなく、時には中心にとなる一本一本にもじっくり視ることを

行っている。この様な観方はどうして生まれたか?

私にはこれが一番の興味であった。

 

私の推定では、

1.彼の経験からきているのではないか。

彼は以前に発掘調査を行っている。発掘調査には歴史学者のみならず生物学者、社会学者、

地質学者等多くの人々の協働作業から成り立っている。

 彼はこの本ではこの様な学際的(インターデシプリナリー)アプローチを展開している。

 

第1にツールは「生物学」である。

生物学では

①あらゆる生命体は生存のために、環境からエネルギーを引き出して自らのために活用する。

  このことはアメーバから人間に至るまで同じである。

②高度な知能を持つ動物は「好奇心」を持つ。人間も同様である。

③人間は個人、個人では異なる行動をするが、大集団になれば同じ様な動きをする。

  (パターン化が可能)

 

第2のツールは「社会学」である。

歴史が教えるのは「圧力が掛かれば変化がもたらされる」と言うことである。

そこで、モリスの定理(半分くらいジョーク)では、

「変化は、怠惰で、貪欲で、不安にかられた人々が、もっと手軽で、安全で、利益の多い

 方法を求める時にもたらされる。彼らは自分が何をしているかほとんどわかっていない。」

と。

 これら怠惰で、貪欲で、不安にかられた人々が手軽に利益を得ようと思い、それを追求し、

成功させるために資源(知的、社会的、物質的)獲得を行うと、必ず負荷が掛かり、社会は更なる発展を妨げる力を生み出す。

 これは全ての改善、改革に言えることで、最初に必ず抵抗勢力が存在する。大きいか小さいかは別にして。

彼はこれを「発展のパラドックス」と呼んでいる。

文明の発展はこのパラドックスという壁を乗り越えてきた。

乗り越えない時、解決できない時、社会はさまざまな災厄は個々に発生した場合もあるし、

一度に発生した場合もある。

5個の災厄とは、

飢饉、疫病、野放図な移住、国家の失策、気候変動    である。

この5個を「黙示録の五騎士」と呼び、これらが加わると破壊と暗黒の悲惨な時代が訪れる。

 

第3のツールは「地理学」である。

かつてヘロドトスは「穏やかな国は穏やかな人を育てる」と主張した。

地理的な相違は長期的影響力を持つが決して固定的ではない。

社会発展のある段階では地理的利点があってもある段階では必ずしもそうではない。

 例えば紀元前2000年頃、地中海では西洋国家は拡大に依って交易路という利点があった。

ところが紀元前1200年頃に国家が支配力を失うと、地中海は疫病や野放図な移住の

ルートになった。

地理が社会発展を促す一方で、社会発展が地理の持つ意味を決定するとも言える。両者は

双方向的な関係にある。

 

2.指標を創造し、それを「西洋」と「東洋」という場所での時系列比較を行ったことであ

    る。

①指標についての後ほど詳しく説明するが「社会的発展指数」を設定し横軸は年代を取って

  いるグラフが数多く出てくる。

  また指数の持つ変化への対応力(例えば計算上20%づれたとしても指数全体に及ぼす

  影響力、即ち頑健性-Robustness)についても充分と自信を持っている。

 

  なぜそうするか。

  それは、「現在なぜ少数の西洋の国々が世界を支配しているか」についての分析のため

  であると言う。

 

  これについてはこれまで2つの考え方がある。

  1つは、「長期固定 -Rock In」論である。

  これは1万5000年も昔から西洋が優位であった。東洋は全く異質である。

  東洋には産業革命は生まれなかった。また文化的にも西洋が優れている。

  例えばジャレド・ダイヤモンドの「銃・病原菌・鉄」では、ヨーロッパの方が中国より

  優勢だったことを明らかにしている。

  ヨーロッパは征服者に対応し易く、政治的分裂に好都合だったのに対し、中国は政治的に  

  も中央集権がやりやすかった、と言っている。(皇帝の一存で勝手に何でも出来る)

  またカール・マルクスも同様に東洋の国家は何千年も中央集権国家であったために歴史

  の流れをせき止めてしまった。

  西洋はその点封建制から資本主義へ、そしてプロレタリヤ革命へと進化しているとマルク

スはニューヨークのトリビューン紙に執筆している。

 

  2つ目は、その長期固定論に対し「短期偶発」論である。

  これはたまたまコロンブスが中国を発見できずにアメリカを発見したことがヨーロッパ

  の地位を変えることになった。即ちコロンブスの大失敗によって地位を変えることが出来

  たという説である。(アンデレ・フランク)

  また産業革命はたまたまイギリスに良い炭田が発見され、それによって急速に工業化が

  進んだ。(ボラメンツ)イギリスは運が良かっただけであると言う。

 

  これら2つの論に対しモリス氏はどちらでもないと言う。

  西洋は過去1万5000年の内1万4000年は優位であったが、550年から

  1755年の約1000年は東洋の方が発展したと言う。

  今後はどうなるか。 これが面白い。

 

②どこを「西洋」と呼び「東洋」と呼ぶか。

 「西洋」とは初めて人類が飼育栽培可能な動植物と共生した地域、即ちチグリス・ユーフ

ラテス川の上流の丘陵地帯を言う。紀元前9500年前に初めて人類が家畜化、栽培化

した場所である。これをオリジナルコアと呼んでいる。

「西洋」のコアはその後西進し地中海沿岸地域へと、更にはアメリカ大陸、そして

オーストラリア大陸まで広がっている。

「東洋」は紀元前7500年前に黄河と長江に挟まれた地域が最初のコアである。

家畜化と栽培化が行われていた。

その後現在の「東洋」のコアは日本からインドシナ半島に及んでいる。

 

なお、その他のコア、例えばメキシコ、ペルーやインド、アフリカ等については焦点を

東洋と西洋に絞って比較したため省略したと言っている。

 

・モリス博士の言う「後進性の優位」説について

 「社会の大いなる進歩は、発展したコアからの導入、模倣がうまく機能しない地域に

   生じることが多い」

  これが後進性の優位である。

  5000年前ポルトガル、スペイン、イギリス、フランスは当時のコアから大分離れた

  地位にあった。地理的にはマイナスであった。

  ところが500年前はそれまで流れになかった大洋を新種の船の完成で渡れるように

  なると西ヨーロッパが急速に発展し、東地中海の旧コアを追い越した。

   20世紀の状況を見ると、中国は1980年代以降、鄧小平による改革開放路線に

  よって「世界の工場化」に向かって進んだ。一方パソコンに代表される所謂デジタル

  化製品によって、素人でも組み立てられる様になり、一応「世界の工場化」が進んだ。

 

最後に博士も引用しているジョークが1つ

 (A・ビアス 「悪魔の辞典」 西川正身訳  岩波書店)

 歴史家 :広範囲にわたって噂話をやらかすやから

 歴史   :大抵は悪者である支配者と、大抵は愚か者である兵士によって惹き起こされる

          大抵は重要でない出来事に関する、大抵は間違っている記述。

 

注:モリス博士が提出したデータは57話に記載した。

 

(近藤 哲夫)

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