私どもケーズエンジニアリングでは、トヨタ生産方式の考え方による改善コンサルティングを通じ、数多くの改善リーダーを育成するサポート活動をさせて頂いております。

改善エッセイ

第15話 タクトタイムで造る ・・・機械能力のムダ

2012年12月25日

 

        1980年代の中頃、私が生産技術部長の頃の話である。

       新しい溶接ラインに設置する新機械について提案を受けたことがある。

        それは

       「これまでの機械能力よりも2倍の能力があります。

       即ち、これまでは40秒で完成していたが、この機械は20秒で完成します。

       品質上の精度も以前のものと同等であります。

       これにより生産増に対応できるのでぜひこれにしたい。

       価格は若干上がりますが・・・」

        私「この溶接ラインのタクトタイムの計画は、これまで通り1分ですか?」

           「そうです。」

        私「何故早くするのですか?

           月1万台を2万台生産するの?

           そうなると他の設備能力も2倍にしなければならない。」

          「・・・・・・」

        私「私は今の設備も能力が余っていると思っている。

            タクトタイム1分に対し40秒しか動いていない、20秒は遊んでいるのだよ。

            本当は60秒ぎりぎり、58~59秒位でゆっくりした能力で

           価格もそれなりに安いモノが欲しいネ。」

 

       この20秒の遊びは正に機械能力のムダである。

       更に悪いのは、速くした分コストがかかり、結果価格が上がるのである。

        しかし、一旦購入した機械はどんなにその機械が遊んでいても回収出来ない。

       これを埋没費用(SUNK COST)と言うそうである。

 

        一旦購入した機械は遊んでいようが、動いていようがその稼働に無関係に

       経理で減価償却費として処理される。(特別償却を除いて)

        だから機械購入前にある評価尺度に基づいて十分検討しなければならない。

        幸い、トヨタには「タクトタイムで造る」という思想があった。

       ところが、生産技術者はともすると生産能力のより高い機械、

       品質工程能力(精度)のより高い機械を求めがちである。

       結果価格は上昇し、サンクコストも増加する。

        鈴村さんからは、

        「お前等生産技術屋は機械メーカーのカタログばかり見て機械を買う。

         カタログエンジニアだ!」

        とドナラれていた。  (カタログエンジニアは別途で説明する)

 

        その頃読んだ本に次の様な言葉があった。

       「最近の設計者は上手い馬車の設計は出来ない。

        彼らが設計すると精度の高い馬車を設計するので、砂利道を引く馬がすぐ疲れてしまう。

        車軸の精度を下げて緩くすると、車が小石を除けるので

        馬はそう大きな力も出さずに済み疲れない。」

       (森政弘著『納得の工学』 開発社)

       さすが森先生である。

 

       注: タクトタイム

                1台または1個を何分・何秒で造らなければいけないかという時間値のこと。

 

       (近藤 哲夫)

第14話 適正在庫とは

2012年12月11日

      前説でも云いましたが「適正」(Optimum)なる言葉には、多少の疑問を感じる。

     オペレーションズ リサーチ(Operations Research;OR)でも

     「適正」なる用語を使っていたが、それは種々の制約条件のもとでの「適正」であった。

     例えば、『市場が急変しなければ』とか、『ストライキが起きなければ』とか

     『地震等の天変が起きなければ』等々、とにかく現時点での静的、瞬間においてのみ

     妥当な「適正」であった。

     (動的 - 時間によって変化する - な解法は、一般的にはシミュレーションでしか

     近似解は得られない。)

     ところが、これが実際の現物においては、適正解とか、最適解とかのコトバが

      会議の場で飛び交う。(特にマーケティング関係や生産技術関係)

     その一例が適正在庫である。

 

     これは私が体験した、ある会社のTV製品の完成品出荷場での話である。

     私が「 随分多くありますネ。何個ありますか? 」と尋ねると

    そこの管理者のAさん「 約32,000個あります。種類も多く

     特急の顧客対応の為にも、適正在庫と考えています。 」

     私「 32,000個は平均何日分の在庫になりますか? 」

     Aさん「 平均の販売数量の約10日分です。 」

     私「 10日分は適正在庫量ですか? 」

     Aさん「 多分… 」

     私「 この在庫は誰にとって『適正在庫』 ですか?貴方ですか?工場ですか?

                営業ですか? 」

     Aさん「 私はタダ預かっているだけです。営業は必要なモノが、必要とするトキに

               必要数があれば良いと云っています。よく分からないが多分

               工場にとって適正在庫だと思います… 」

     話はまだ続いたが、どうも適正在庫という言葉が在庫の多さの言い訳(?)に

     使われている様である。

 

     この様に「最適」値はORや経済計算等では、制限条件を付与すれば

      静的最適解は可能である。

     (多くのこの種の入門テキストには、その計算式があるので、それを参照されれば良い。)

     しかしこの静的解は、参考にはなっても殆ど実用にはならない。

     (と極言するとどこかで又叱れるかな)

     なぜか?それは現実ではマーケットの時々刻々と大きく、人為ミス、運送トラブル

      等々の想定外の状態が発生し、それなりのリスクを想定し、その対策をどのレベルで

     どうするかのリスク管理を実施しなければならないからだ。

     となると、管理のレベルによって、又仕事の責任において、いわゆる「最適解」が

     異なるのは当然のことになってくる。

     前例では、出荷の管理者にとっては、在庫量は極論すると多ければ多いほど

     特急注文、作業ミス等のリスクが少なくなる。

     ところが、工場長・事業部長レベルになると、在庫量が増加すると倉庫の増設

     収納パレットの増加等のコストが発生する、又廃棄ロスも増加する。

     従って、この管理レベルは在庫が少なければ少ないほど会社のコスト削減

     利益増に寄与するとして歓迎する。

     因って、最適値は管理のレベルによって変化する。

     (即ち、管理レベルによって制限条件が異なる。)

 

     次の具体例は、私の1970年代の体験である。

     自動車工場で車体生産を行っている所は、一般に次の様な工程になっている。

       プレス工程→溶接工程→塗装工程→組立工程→検査・出荷

     溶接工程以降は、一般にコンベヤで自動化している。

     しかし最初の プレス工程→溶接工程は、実際は

          プレス工程→プレス品在庫場→溶接工程 となっている。

     これはプレスが多品目を生産するためである。

     又、プレス工程は殆どが2個以上数百個又は数千個を一度にプレス生産する。

     (これをロット生産といい、この2個以上の個数のことをロットの大きさ

     -ロットサイズ- という。)

     この時期、日本の自動車市場は拡大期であり、工場は生産拡大に追われた。

     製造工程の拡大により在庫場は当然の縮小になる。

     在庫場の縮小は当然在庫量の大幅縮減になる。

     在庫は、生産と後工程使用(消費)のギャップである。

     このGAPを小さくするには、生産と消費を物理距離・時間距離をどの位まで

     短縮するかである。

     GAP0(ゼロ)とは、即ち同期化である。

     一般には、同期化は前・後工程のハード・ソフト・チームワークが重要である。

     昨今の電力事情が示している様に、この体制を造るべき政府は「私は節電というだけ」

     国民は「電力会社をウラムだけ」

     電力会社は -特に現場は-「停電しない様懸命に動いている。」

     この様なチームワークのない状態では同期化は絶対に出来ない

     何故ならば、電力は貯蓄できない。

     即ち、生産即消費の同期生産の最たるものだからだ。(=GAP0)

     結果は何か

     電力会社は供給義務を履行するため、急激な消費増により余剰設備を持たざるを得ない。

     それには、莫大なメンテナンス費用がかかる。その結果、電力料金は上がる。

     チームワークのない工場、会社、国家はすべてコスト高になるのですヨ。

     ロンドンオリンピックでは日本のチームワークの良さが大いに称えられたのに

     電力では全くNo Team Work!

     一度、私の経験した米N.Y.の大停電 -主な原因はメンテナンスの悪さ-

     を日本人は一度経験してみたらどうだろう。

     同期化のためのハード・ソフトの現場のメンテナンスとチームワークが

     どれほど大切なものか、多くの机上の専門家(と云われる人)には理解不能であろう。

     (蛇足。最近、太陽光パネルの設置が流行しているが、(あえて流行というが)

     太陽光パネル生産の改善活動をお手伝いした経験から云うと、まだまだ価格が高く

     日本の全世帯の65%を占める年収550万円以下の世帯では、設置が難しい。

     -参照 澤 昭裕「精神論抜きの電力入門」新潮社)

 

     私が改善に従事した工場のプレス工程は、当時 生産品目数は約50品目であった。

     1品目で絞り、加工、曲げ加工、旋断加工、穴明加工が行われ

     それぞれの加工のための専用の型とプレス機が必要である。

     従って、1品目で4~5台のプレス機が必要になる。

     (製品が小さい場合、一台の大型プレス機に全行程の型-連続型という-を設置して

     時間短縮を行うことが多くなっている。)

     これを同期化しようとすれば、プレス機は50品目×4~5工程=200~250台が必要になる。

     設置する投資コスト、スペース、メンテナンスコストは莫大になり

     会社は赤字になってしまう。

     どうすれば、良いか。

     現場をじっくり観察すると、1品目の在庫の山には「安全在庫」と云われるものが

     全ての品目にあった。

     もう1つは、「流動在庫」と云うものがあり、在庫の山はこの「安全在庫」と

     「流動在庫」で構成されていた。

     「安全在庫」は後工程の溶接工程がプレス工程の生産数、品質が信じられない

      -即ちプレスの工程能力が低い- という不信感から出た言葉である。

     鈴村さんはこれを「安心賃」と呼び、その工場のチームワークの悪さ

     1つのモノサシにした。

     「安全在庫」を0に近づけるためには

     ①両工程のチームワーク向上の為の交流会と人事異動

     ②両工程の移動キョリの短縮と移動タイミングの明確化

     ③両工程の生産状況、情報の公開

     ④なによりも「安全在庫」は相互不信のシンボルという意識づけ

     等を実施した。

     一方「流動在庫」はカンバン方式で決める。

     即ちカンバンが来れば、来た順に従ってカンバンに記載されている数量(ロットサイズ)

     鉄板材質、厚み等を確認して、プレス作業を行う。

     後工程の溶接工程は、生産順序に従って必要品を数個ずつ在庫場から工程まで運ぶ。

     ある瞬間の「流動在庫」は

     その時に近い時刻に生産した数(ロットサイズ)から

     その瞬間までに後工程に運び出した数を引き算するのである。

     「流動在庫」を0に近づける為には、

     ①ロットサイズをできるだけ小さく1個に近づける

     ②その為には、プレス型の段取替え時間を少なく1秒に近づける

     ③プレス型のメンテナンス時間の標準化をすすめる

     ④型段取替時間を短縮するため、型構造を標準化する

     ⑤後工程運搬タイミングのパターン化

     等を実施した。

 

     以上の様に

     「安全在庫」低減は

      チームワークの向上、情報公開、多能工化、が中心課題で、システム改善

     仕組み改善になる。

     一方「流動在庫」低減は

      カンバンシステム等の仕掛の改善、標準化、段取り改善等の現場改善が中心になる。

 

     最近の話題として

     1.「段取り改善」は利益が出るか?という質問を受けたことがる。

     結論は、段取り改善のみでは儲からナイ

     在庫を減らし、在庫管理マン、運搬マンを減らして始めて儲かる。

     これは大野さんが昔から云っていたことである。

     段取り改善ノミで終わっている工場を見ると、つくづく全体改善がなされていない

     ことに気づかされる。

     2.「本当にロットサイズ1個」は可能ですか?

     1970年代に鈴村さんの発案で「ながらプレス」という安い機械をトヨタグループで

     設計、製作し、使用したことがある。

     しかし安衛法に触れるということから中止になった。

     「ながらプレス」という発想は

     ロット生産からの脱却

     流れで生産する

     という考え方の大改革であった。

     即ちロット概念の打破である。

     その為には、まず

     ①超安価で、従ってポータブルで

     ②安衛法に適合する

     マシンの開発という

     技術の革新がある。

 

     これは従来のロット生産を行う、プレス機、インジェクションマシン、鍛造機の形で

     なく、連続形となるであろう。

     現在の世界でこれを実現する民族は、日本民族ではないか

     と秘かに期待している。

 

     それにつけても

     「適正」が言訳にならないことを切に希望する。

 

     (近藤 哲夫)

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