私どもケーズエンジニアリングでは、トヨタ生産方式の考え方による改善コンサルティングを通じ、数多くの改善リーダーを育成するサポート活動をさせて頂いております。

改善エッセイ

第31話  「あるべき姿」の訓練(4) - 根本的に考える -

2013年8月27日

  根本的に考える。枝葉末節にこだわるな。

  ①根本的に考えるとは、真因、中心を見つけていくプロセスである。

  その問題の真の原因、または本当の核(中心、コア)は何かを、トコトン詰めていくことである。

  トコトン詰めるということは、何故か、何故か、何故か、・・・と何故を5、6回繰り返すことである。

  大野さんは「5WHYを繰り返せば、必ず1つの原因に辿り着くこれが真の原因、真因である

  真因が見つかれば、その改善方策は比較的簡易に見つかる」と言っている。

  5回は最低5回であって6回、7回でも良い。

  3回位で「真因を見つけた」と錯覚すると必ず失敗する。

  3回位では表面的原因が多い。

 

  真因、コアに到達するのはWHYを5回以上、それも机上で行動せず、現場で行うこと

  これが具体的である。机上で行うと抽象的になり、すべて「社長が悪い」と言うことになる。

   現場では、現物があり、具体的であり、テストにより再現可能である

  真因、コアらしきものを 確認したら、必ず実験、シミュレーションテストを行って確認する。

 

  ②5WHYは必ず具体的に行うこと

  「抽象的な責任論」や「マニアルにはこうなっている」とか本質を探すのにバリアーになることは

  絶対にやってはならない。

   「素直」になって5WHYを実施することである。

  「素直」とは「事実を事実」として偏見なく見ることである。あたかも子供の様に。

  この「素直」を「相手の言いなり」と勘違いしてはならない。

  「自分は正常だ。正直だ」と思うのは錯覚である。これを決めるのは「自分ではなく他人」、第三者である。

 

  ③マニアル、規則は「守る」「守らない」ではなく、「打ち破る」為にあると考えると1歩本質に近づく

  なぜならば、マニアルや規則が作成された頃の環境、条件が現状とは異なるからである。

   まずは作成された頃の環境条件を調査すべきである。

 

  ④改善案を作るに当たり、過去の成功経験も同様に「そのまま再現してはダメ」である。

  その頃の環境条件を調査し、現状に合わせてアレンジして使用した方が良い。

 

  ⑤過去の失敗経験は2度と使用しないのではなく、「失敗は成功の元」で

  現状に合わせてアレンジして使用する。

 

  ⑥5WHYを使用していると、3WHY、または4WHY頃から2つの選択肢に出会うことがある。

  ゴールドラット(Goldratt:ザ・ゴールの著者)のいくつかの本にはこの2つの選択肢のケースがあった。

  トヨタの5WHYは1つの選択肢しかない単線であるが、ホワイトカラーの改善の場合、複線になるケースが起きる。

  このときは複線の両方ともトライしてみる価値がある。

 

  例題: 「身近な問題(例えば不良、ミス、苦情など)で5W1Hをやってみよう。」

 

  (近藤 哲夫)

第30話  「あるべき姿」の訓練(3)

2013年8月13日

 

   多面的、全体的に観ることの訓練

  1.「あるべき姿」を描くことはその問題解決である。

  そのためにはまず心構えを整理する。

 

  ①過去は全て良し、とまず思う

   人間集団に於いては、過去の利害関係者によって合理的展開にならず、コンフリクトが発生し、

  廻り道をしなければならないケースが多々ある

  それを避けるためにセンチュリープロジェクトでは過去の関係者について絶対に批評するなという指示を出した。

 

 

  ②楽しく、ワイワイガヤガヤ、ゲーム感覚で改善しよう

   改善は辛いものだという先入観がある。これを破るために「目標達成するかしないかはリーダーの責任

  メンバーは全てのアイデアをトライしよう。ゲーム感覚で楽しくやろう。」

  と決めた。

  ほぼ毎日全員が深夜まで働いたが、終わりは近くの食堂で夜食をしたものである。

 

  ③日々実践、トライする

   アイデアが机上で良くとも、トライすると思いがけないトラブルが発生する。

  従って良い悪いはトライによって決めることにした。

 

  ④問題現場を白紙で視る。先入観で視るな。

  「自分は知っているとウヌボレルな!自分は何も知らないと謙虚になれ

   白紙で視るということは、そのモノと自分を同一化することである。自他同一化である。

  ある日鈴村さんと一緒にプレス工場を見たとき、師匠が「部品が泣いている」と言った。

  このとき、そのプレス部品が完成箱に自動的にコンベヤによって送入されていたが、

  箱とコンベヤの段差が約20cmあった。「ガチャン」という音が泣き声(不良になる)に聞こえたらしい。

   また、謙虚になって見ると、問題が向こうの方から教えてくれると鈴村さんは良く言っていた。

  彼はそれ故、下の3つが同時に眼に入ったという。正に天才である。

  (イ)その問題の真因

  (ロ)真因解決後の現場の姿(理想の姿)

  (ハ)その理想に到着するステップ

 

  ⑤絶対にやってはならないことは、

  過去の規定、ルール、モデル、手法を盲信的に使用するな

  過去のモデル、手法は「ある条件、環境」の基で造られたことを忘れるな。

  まず「現場を視ヨ」その上で、その現場の環境、条件に合ったモデル、手法を自分たちで造ろう。

  たとえカンバンだろうと無条件に使用するナ。

 

  ⑥「自分がその問題の所有者である」

   自分がその問題のHolder(所有者)であることを毎朝唱えよう。

  だからその問題を解決する主人である。

  解決するのに、まず自分の考えを持つ、その上で他人の力を利用しよう。

  「他人の褌で相撲を取るには多いに結構」である。

 

  ⑦問題空間を自分の都合で小さく取るな。

  問題空間はリーダーまたはサブリーダーと相談して決定する。勝手に自分で決めるな。

  問題空間を小さく取ると、問題解決が一面的、表面的になり、真の原因の問題解決にならない。

  部分最適になる。

  「私の職務分掌はこれこれで、この問題は私の分掌の外です」という者には、私は、

  「辞表を持って来たのか」と聞いたものである。

  こう言う人はプロジェクトメンバーにはなれない

 

   以上が「あるべき姿」の訓練の心構えである。

 

  2.5つの見方

  「あるべき姿」の訓練は、「心構え」の次は「見方」の訓練である。

  ①Negative(批判的)な見方

   Negativeな見方をする人々の多くは、

  不平不満愚痴泣き言悪口文句

  を言って生活しています。これでは「あるべき姿」は創出できない。

  これらの人々は口ぐちに「絶対に・・・」とか「そうではなく(BUT)・・・」や

  「こうすべき(MUST)・・・」の言葉を言います。

  良い「あるべき姿」はこれらの言葉を言わないことから始まる

 

  ②Positive(肯定的)な見方

   Positive Thinking(肯定的思考)は現在日本では流行している。

  「かんばろう!」「きっとやり抜くぞ!」「努力は必ず報われる」等の言葉で言われている。

  確かに未来に期待して努力するのは1つの生き方である。

  しかし疲れるネ。

  疲れずに、肩に力を入れず、自然体で見る見方が下の3つである。

 

  ③「これは何か意味がある、何かのシグナル」としてとらえる見方

  「これが起きていることは何の意味が私にとってあるのだろうか?私に何のシグナルを出しているのだろうか」

  とまずは自分で考えることである。

  自分が問題のHolderであるという自覚を持って。

  この見方、考え方は「ブレィクスル―思考」と言って一時代前に流行した。

  (福島大学、飯田教授)

 

  ④「全てに感謝して」見る見方

  お客様、前後工程の人々、家族に対しては「感謝」するのは当然ですが、これを拡げて、

  今、目の前にあるもの全てに感謝するという態度をとることは中々難しい。

  しかし、「ありがとう」という言葉を頻繁に使うことにより、現状が更なる展開をすることが

  私にとってしばしばあった。

   まず「ありがとう」と言うことで、自分自身がだんだん素直に成って行くことを実感する。

  その内に自分の偏見が少しずつ消えていくことを感じた。偏見は一面しか見ていない場合が多い。

  私にとって「ありがとう」効果はそのモノ、そのコトを多面的に見ることが少しずつ可能になったことである。

  この「ありがとう」効果は継続することが基本である。

 

  ⑤謙虚に、素直に、白紙で見る見方

   これは先入観ナシで、偏見ナシで、モノ、コトを視ることである。

  そうすれば、いつの間にか相手のコトが分かる。いわゆる自他同一感が生まれる。

 

   以上5つの見方を説明したが、大切なことは「自分に合った見方」はどれかを自分で発見することです。

  私にとっては「あるべき姿」を探す過程で、④と⑤が自分に合った見方であった。

  いずれにしても①のNegativeな見方から何も新しいモノ、コトは生まれない

 

   近年、パラダイムチェンジと言われているが、これは見方を変えるということである。

  まず、世の中、政治経済のパラダイムチェンジを批判する前に自分自身の従来の見方から

  新しい見方に変えてみることである。

  これが自分のパラダイムチェンジである。

 

  3.多面的な見方の訓練

   多面的な見方とは一面的な見方の否定である。

  具体的には、

  ①自分に対し、辛辣な批判をする友人、先生、妻の意見を素直に聞ける訓練をする。

  これには相当の努力と忍耐が必要だが、それを乗り越えないと一面的な見方から脱しない。

 

  ②「枝葉末節」に振り回されるな。

  自分がリーダーとしての役割は何かを絶えず考えて行動する。

  部下のオペレーショナルな質問に対して「それはお前自身が考えることだ」と突き放すことである。

  すぐ答えを言うお人よしではメンバーも育たないし、多面的な見方も難しい。

  「中心はどこか」を絶えず考えないと、「王様の居ない将棋を指している様なモノ」になってしまう。

 

  ③いつもその内容を「具体的」「個別的」に考える訓練をする。

  「抽象的」「観念的」大雑把になるな。

  相手と話すとき、相手が「抽象的」な話しになったら、その相手はそのことを良く知らない

  と思うことである。

 

  ④非確定的な材料、要素に振り回されるな。

  もし相談中にその話が出てきたら、そこでストップする。それが確定的に成るまで待つ。

  そうでないと 徒に心配気分がチームを支配し、あらぬ想像に怯えたり、喜んだりする。

 

  ⑤「専門バカ」とはその角度しか一面を視ない人々のことを言う。

  専門バカになるなかれ。

 

  要は、多くの人々の意見を聞き、「一喜一憂」しない訓練絶えず中心を明確にする訓練

  することに尽きる。

 

  4.全体的な見方の訓練

   大野さん、鈴村さんは私に対して「森」を観よを良く言われた。

  木1本1本を視るのは少しの訓練で可能であるが

  「森」全体を観るということは私にとって相当困難であった。

  二人の天才の暗黙知を凡才の私がどの様な明在知に置き換えていったか

  これは私の一つの実践例であります。

  (参考になるかどうか)

 

  ①今何が枝葉末節で、何が中心かに分けて考える。

  例えば「60万円原価低減」の場合、第1次中心点は何か、を絶えず考えていた。

  今は「工数低減」が第1次中心と私が決めた。

  確かに歩留まり向上、経費節減もあったがこれらは枝葉と取りあえず決めた。

  そして、中心点「工数低減」に焦点を絞って改善に入った。

  中心点が全体像の枠を決める

 

  ②全体像は一つの面の構成では、いくつかのブロック、モジュールの構成で成り立っていると仮定し、

  いくつかのブロック、モジュールに分け、各ブロック、モジュール間の「つなぎ」とした。

  ブロック、モジュール毎の改善は共通の工数改善である。

  しかし「つなぎ」の改善は、鈴村さんは「この改善こそがトヨタ方式のキモであり、仕組みの改善である」と言った。

  「つなぎ」の改善、例えば部品供給と工程の各ブロックが工数低減という目標に対し、

  2つのブロックの改善効果が最大となる、改善方法、タイミング、供給場所、供給量、

  供給手段等をどう決めるか、ということである。

 

  ③1つの改善目標に対して、作業改善的アプローチ(作業の動作改善)、

  工程改善的アプローチ(前後工程も改善対象)、設備改善的アプローチ、5W1Hによる真因追究アプローチ、

  作業者のやる気向上的アプローチと数多くある。その中で問題の主人達(メンバー)は何を

  どの様な理由で、選んだかを明確にさせた。

 

  ④いくら良いアイデアでも使わないとダメ、「すぐ実験する」「すぐトライする」こと。

  これによって次のアイデアが創られる。

  

  ⑤全体像は「イメージ」である。

  自分の頭の中でイメージトレーニングすることである。

  私の場合このイメージを描くのにKJ法が役に立った。

  

  全体像を描くのはリーダー自身である。そのためにも自分自身をトレーニングする必要がある。

  一部の天才を除いて、我々凡才はこれを形式知、明在知にしなければならない。

 

  これはあくまで私の経験である。

 

  まとめ

  1.「心構え」をキチンと持つ。

  

  2.「自分なりの見方」」を持つ。

  Negativeな見方からはパラダイムチェンジは生まれない。

 

  3.多面的な見方の訓練は、

  多くの方の意見を素直に聞き、一喜一憂に惑わされず、中心を明確にする訓練を自ら行う。

  

  4.全体的な見方の訓練は、

  絶えず中心は何かを考え、全体を描き、いくつかのブロックに分け、その「つなぎ」を考えて、イメージトレーニングする。

  

  多面的な見方の例題:  「この手帳は何色ですか」

 

  (近藤 哲夫)

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