私どもケーズエンジニアリングでは、トヨタ生産方式の考え方による改善コンサルティングを通じ、数多くの改善リーダーを育成するサポート活動をさせて頂いております。

改善エッセイ

第11話 原価は目で視えるか?

2012年10月23日

    第4話で話したが、1971年のセンチュリーの100万円原価低減を行った際、

    私達、関東自動車工業(株)の担当分60万円/台をどの様に低減していくかが

   大野さん、鈴村さんとの話題になった。

    「毎週、毎月の原価低減状況をプロジェクトメンバーに数値として明示した方が

    改善の進行は確実である。そうしなさい。」という指示である。

 

    主材料費・補助材料費の節減は、金額表示が可能であるが、

    工数(人の作業時間)の低減については

    1台当りの作業時間の低減を先ず算出し(即ち1台当りの平均低減時間)

    これに1時間当たりの係数(アワーレート:直接員賃金+間接員賃金の1時間当たり)

    を掛けて算出する。

    そして生産台数実績は、1週間(後に1ヶ月当たり)の総生産数を

    生産する為に消費した工数を出し、1台当りの平均工数を算出した。

    実際は日によってあった労働組合の会合等の他業務の時間は全てカットして

    日々のバラツキを無くした。

 

    問題はアワーレートである。

    これは工場経理が算出するが、これが年度によって変化する。

    色々と交渉の末、年度(期)をまたいでも同じ係数になる様に調整した。

    従って、経理上で表現する原価低減の数値と、

    プロジェクトで表現する原価低減の数値は異なる。

    (同様に材料費価格も変動に見舞われた)

    (私にとって、経理との衝突はこれ以降在庫問題でも発生した。)

    1年以内のプロジェクトであれば、特別な場合を除いて、

    価格変動やアワーレート変動は無視される。

    ところが1年以上の場合、これらの変動は無視できない。

    1年以上のプロジェクトを行っている建設会社に、どの様にしているのかを

    質問に伺ったこともある。

    大半が「修正」はプロジェクト終了後に行っていた様である。

    ところがこの当時の当社の経理担当常務は「当期で発生した費用は全部当期で計上する」

    とガンとして聞き入れない。

    また、運悪く(運良く)プロジェクト進行中に第1次オイルショック(1973年)が発生してしまった。

    しかし、プロジェクトは計画当時の価格・レートで、低減状況を表示することにした。

    これによって、自分たちの努力のみで、低減状況が変化することを良く解かるようになり

    自分たちのR&R(役割と責任)をより一層感じたのではないかと思う。

    もしこの時、経理の数値(価格、レート)で表示していたら、

    チームメンバーは「自分たちの努力以外でも変動するのだ、自分の責任だけではナイワ。」

    という気持ちになっていたのではないかと思う。

    現在(2012年)言われている「見える化」では、

    期をまたいだケースはあまりお目にかからないが、

    「何のための見える化」なのかをよく考えて、実行した方が良い。

 

 

    金額表示はこの様に価格やレートを固定して表示したが、

    現場に貼り出していたのは、

    材料は『低減重量と歩留り率』

    工数低減は『改善時間と不良低減時間(手直し時間)』であった。

    この方が金額表示よりも、よりリアルに感じる。

    「目で視る」ということは、理解し、納得してもらうためのものである。

    その点で、実物の重量(g)とか時間(分)が納得されやすい。

    金額は札を数える時にしか実感はないのではないかと思う。

    (これが実感されるようになると一流の会計士だそうである)

    そう言った意味で、「原価の見える化」は中々実感できない。

    例えば「あと5000円/台 原価低減」よりも「あと工数低減60分/台」と云った方が

    現場は実感できる。

    これは写真で見る美人と、実物を見るのとの違い、と同じかもしれない。

 

    (近藤哲夫)

第10話 原価低減(COST REDUCTION)

2012年10月09日

     近頃、日本を始め中国・韓国また世界中で原価低減・CR運動が声高に叫ばれている。

    日本では既に数十年前から生産性向上がTOP DOWNで絶叫されて来た。

    最近では、それが生の形でコストダウン・CR運動として叫ばれている。

    私の所にも多くの方々から相談がある。

    特に2千年代に入って「短期で利益を上げるコストダウンの方法を教えて欲しい」という声が多くなって来たことを感じている。

 

    最近ある国で企業トップの方々との会談時、あるメーカートップの方から上記の

    「短期で、それも今年中に、コストを15%下げて利益を出したい。その方法は如何?」

    と相談があった。

    そこで次の様に質問した

    私:「通常は5%とか10%と言った経理算定数字が多いのですが、15%となると正にCRに発想の転換が必要ですネ。

            15%の理由は何ですか?」

    TOP:「・・・・」

    私:「理由を明確にしないと全員参加のCRは難しいですよ。

          30数年前、オールトヨタで最高級車の原価低減100万円を実施しました。

         このときの理由は、その車の黒字化でした。

         理由不明のままですと実際に改善する人々のモチベーションは上がらないですヨ。

         5%とか10%ですと「またか」「年中行事か」としか受け取られないですヨ。

          トップ以下が正に真剣になって、15%下げるという意気込みを持つこと、これが大切です。

         どこかの国では、公務員給与の5%カットを国会で決めても、世界最高の報酬を受けているその国の

         国会議員報酬はノーカット、これで は公務員のやる気はなくなります。

         同様に、御社でも本当に15%CRをやりたければ、TOPの給料50%、役員40~20%、部長15%カットを行って、

         それを社員食堂の壁 に  張り出すとTOPの意気込みが従業員に伝わります。」

    TOP:「・・・・」

    私:「明治時代の日本の経営者の中には、会社再建の折には給料ナシで働いていたと言われております。

           その位の男気があった方が部下はやる気が出ます。

           原価低減(CR)は実際活動の結果から、それを経理等でまとめる間、そこにタイムラグが生じ、

           CR活動以下の調整に手間取ります。

           例えば工数低減をしてもその人が会社に居る限り、それはCRにはなりません

           また、材料費低減でも材料在庫がある限り、それはCRにはなりません。

           この所を予め決めておく必要があります。

           購入品の値引きも一部の会社はCRと呼んでいますが、それは私の考えではCRとは言えません。

          値引きは屁理屈でも脅しでも相手を落としてしまえば良いですが、CRは合理性がないとダメですよ。」

    「CRは改善マン(ウーマン)を育成するのに良いテーマであります。

      彼らが真剣になればなるほど、実力は間違えなく向上し、改善アイデアも益々有効になります。」

    「CRを短期の利益改善策として捉えるか、人材育成の一つとして捉えるかがポイントですネ。」

    TOP:「・・・・」

 

     約2時間色々なことを話したが、要は、

    CRとは、

      ①TOP自ら実行するということを周知させること

      ②合理的に行うこと

      ③事後の調整を出来るだけ少なくすること

    である。

    改善メンバーのモチベーションが高くなればなるほど、私の体験では50%低減(コストハーフ)も視野に入るものである。

 

    (近藤哲夫)

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