私どもケーズエンジニアリングでは、トヨタ生産方式の考え方による改善コンサルティングを通じ、数多くの改善リーダーを育成するサポート活動をさせて頂いております。

改善エッセイ

第43話 発想法について(2)

2014年2月25日

  年末年始の間、発想法についての本を数冊読んでみた。

  そこで気付いた点はいくつかあるが、まずは2つの点について私見を述べてみたい。

   第1は部分的なテーマの改善が多いと感ずる。確かにOsborn以来、広告関係が先行した

  せいかキャッチフレーズとかデザイン等のテーマが多く、工場全体、会社全体を再構築するのに必要な

  アイデアや考え方が少ないと感ずる。

   確かにTOCは全体改善の1つではあるが、これらは既にトヨタでは実施済みである。

  全体改善はこの他にも例えばコストハーフとか不良率0に「仕組みの改善」がある。

  (敢えてシステム改善と言わずに「仕組みの改善」と言う、人間を重要視するからである。

     仕組み=システム+人)

   部分的な改善も大切であるが、それ以上に大切なのは全体改善である。

  私の経験では、

    全体改善の効果 > 部分改善の総和

  第2の点は“暗黙知”についてである。

  暗黙知については、認識論についての議論が先行するが、これは実業と離れているので省略するが、

  一言付言すれば、欧米で彼らと議論する場合、しばしば感ずるのは彼らが根底に持っているのは、

  「分けて考える」と言う考え方である。例えば労働者対経営者、管理者対一般従業員、

  ブルーカラー対ホワイトカラー等々、何でも分割してしまう考え方である。

  確かにこの分割思考は日本でも小学校以来、国家の基本(即ち合理的思考)の思想であった。

  この分割によって近代科学が発展したと言っても過言ではない。

  我々が経営の場に於いて、この分割思考は十分役に立つ。

   デカルト流の分割 - 二項対立 - 思考は技術の場に於いて十分に役立っているし、

  またこれからも役立てると思う。しかし、しかしである。

   この精神と体を分けるデカルト流の二元論では上手くいかない場合にしばしば私は出会った。

  例えば、全体改善を行う場合、モジュールをどこで切断するか、切断した場合どうやって

  そのモジュール間を繋ぐか、という場合、Bestの回答は無かった様に思う。

  Betterを継続して改善して少しずつレベルアップしていった。

   全てを二項対立して、問題が解ければ良い。しかし、そうではいかない問題も多い。

  特に「人」が絡んだ問題はなかなか割り切れない。

   日本人は古来、この様な問題を解決するために「心身一如」とか「自他統一」という考え方をしてきた。

  自然を大切に守るという日本人特有の認識は正に「自分と自然の一体化」に他ならない。

   全体改善は個のメリットおよび効率よりも全体のメリット、効率を優先する。

  この場合の全体とは、その対象となる組織の利害関係者(ステークホルダー)全員である。

  個の最大メリット、最大効率ではない。また、時間の範囲も1年もあるし、4年、10年、100年という

  場合もある。

   認識論について少し長く話をしたが、この二項対立の結果生まれるのが、理性知(精神)

  であり、客観的な知であり、過去の知であり、デジタルな知である。(『知識創造企業』野中

  郁次郎、竹内弘高著、東洋経済) 即ち、「形式知」と呼ばれるものである。

  この形式知が欧米の主流であると言われているものである。

  Dr.Goldrattが大野さんの考え方(暗黙知)からTOCという形式(知)に変換したのは、

  欧米流の形式知の1つの表れと見ている。

   日本の教育は先ほど申した様に全ての学校でテキスト(即ち形式知)が使われている。

  しかし、実業では必ずしもテキストがある訳ではない。

  例えばハンマーで釘を打つ場合、訓練によって真っ直ぐに打てることが出来る様に

  「体で覚える」ことになる。自動車に乗る場合も同様である。

   実業ではこのことを「体得」と言う言葉で表している。

  「体得」にはテキストがない。(だから体で覚える。頭ではなく!)

   私が大野さん、鈴村さんに「あるべき姿」を教えてもらったのは、正にこの「体得」のための訓練であった。

  「体得」はあくまでも主観的な知であり、経験知で、現在の知であり、アナログ知である。

  これは「暗黙知」と言われる。

   アイデアは、ある瞬間に突然ヒラメク。(私の場合は枕上であった)

  村上和夫博士(『生命の暗号』の著者)と話した時、「そのヒラメキはSomething Greatから来たもの」

  との話があった。ヒラメキも何らかの経験知ではないかと思う。

   「暗黙知」は人から人しか伝わらない。それ故に、日本においては古来この伝承によって

  多くの芸術、技術が継承されて来た。

  「発想」そのものは「形式知」「暗黙知」両方に有るものであると信ずる。

  欧米の形式知による「発想」のみではなく、「暗黙知」からの「発想」の声と形も望むものである。

 

  (近藤 哲夫)

第42話 発想法について(1)

2014年2月11日

  昨年(2013年)の暮、日本及び韓国に呼ばれて「トヨタのあるべき姿」について数回講演を行った。

  その結果は誠に散々たるものであった。即ち、「暗黙知がピンとこない」とか、「実際に応用する場合、

  TOPの指示が無いと皆が動かない」とか「目標(GOAL)以上の成果を上げても・・・」とか、

  「部分改善の成果の合算が全体改善の成果ではないか」とか、

  半分位は予想した質問であったが、残りは予想しなかった質問であった。

   特に「暗黙知」については、30~40歳代のマネジャーからの質問が多かった。

  学校教育のGAPが産んだものと考えている。

  一番理解不能だったのは、野中教授のSECIモデル*1だった様だ。

   そこで、昨年の暮からこの正月休みを利用して発想法に関する本を数冊*2買い込み、

  まず読んでみたのである。

   ガイドブックとして「発想のフレームワーク55」永田豊志著(ソフトバンククリエイティブ)をまず

  ザーと読んでみた。読んでみると、1960~1980年代に日本で流行した手法が出るワ出るワ・・・であった。

   例えばOsbornの創造力については、1950年代に上野先生(日本で初めて能率を言い出した人)が

  経営しておられた産業能率短大で3日間の講義を受けた事がある。メンバーの大半は広告関係の方々で、

  製造関係は私1人であった。

  この時初めて「ブレインストーミング」を実習した。

  その後留学したジョージア工科大学でのブレストとは大分違っていたのには驚いた。

  ここでのブレストでは、まず言った言葉に対する質問が多いのである。

  大学院生同志でもあったので、まず質問は「Why?」であった。

  正に脳を外からひっかき廻される(ブレインストーミング)様であった。

  ただNegativeな質問は余りなかった様だ。「Why?」の次に質問が多かったのは、

  「君の考えにこの○○を加えると□□になるはずだ、この仮説を君はどう思うか?」であった。

  ブレインストーミングであっても、英語の勉強にもなり楽しかった。

   KJ法は、川喜田二郎先生(当時東工大教授)を会社の寮にお呼びし、3泊4日の講習会を行った。

  メンバーは生産技術と製造技術の若手を30人位で行った。

  私は川喜田先生と2人で酒を酌み交わしながら、先生のお話を色々聞いたのはナツカシイ。

   TOC(Theory of Constraints)は大野さんの名前まで出して戴いた。アリガトウ。

  Dr.Goldrattは大野さんから多くの時間を費やして教えを請うたと聞いている。彼の翻訳本

  の「ザ ゴール」を初め「シンキング プロセス」までの数冊は当時の会社の改善メンバーは

  殆ど読んでいてよく議論したものである。

   「全体最適の問題解決入門」岸良裕司著(ダイアモンド社)を一読して感じたことは、

  よくも大野さんの暗黙知をここまで形式知に置き換えたことは誠に素晴らしいということだであった。

   私も大野さんに手取り足取りで教えられた1人である。

  今「あるべき姿」を形式知にしようとしているが、Goldrattの様な優秀な先人に比べても

  大いに見劣りがするが少しずつ形を作っていきたい。

   いずれにしても大野さんは自分の開発した手法についてはいつも「トヨタ方式」と言っていた。

  JIT*3方式が言われた時も「あれはJITである。俺はジットしていない」と笑っておられた。

   多分TPSも同じで、あまり言われなかったのではないか。

  「トヨタ方式は考え方である。手法ではない。」が口癖であった。

   形式知化すると手法になり下がる危険性がある。これをどの様に回避するかがカギである。

 

 

   *1 SECIモデル

      S→E→C→I→S・・・・・

    S:Socialization 共同化:個人対個人の暗黙知の受け渡し

    E:Externalization 表出化:個人→グループ  暗黙知→形式知

    C:Combination 連結化:グループ→グループ 形式知→形式知

    I:Internalization 内面化:グループ→個人  形式知→暗黙知

 

  *2「創造力を活かす」A.オズボーン  創元社

      「ウミガメのスープ」P.スローン   エクスナレッジ

      「耳で考える」養老孟司、久石譲   角川ONE21

      「錯覚の科学」 C.チャプリス   文芸春秋

      「ワンランク上の問題解決の技術」  横田尚哉   ディスカバリートウェンティワン

 

  *3 JIT:ある会社名(ジット株式会社)

        Just In Time をもじったもの

 

   (近藤 哲夫)

ページの先頭へ