私どもケーズエンジニアリングでは、トヨタ生産方式の考え方による改善コンサルティングを通じ、数多くの改善リーダーを育成するサポート活動をさせて頂いております。

改善エッセイ

第89話 なぜドイツが国家を挙げてインダストリ4.0?

2016年1月27日

 最近NHKを始め多くのマスコミが、ドイツ及びアメリカのいわゆる

インダストリ4.0(アメリカは違うが)を取り上げている。

また、数多くの出版物も出ている様だ。

大半が、日本が乗り遅れるのチョーチン記事である。

本当に乗り遅れる?

マスコミが騒ぐ時は大半が、政治が何かをしたいときである。

昭和50年頃のカンバン騒ぎもそうだった。

共産党が「トヨタのカンバンは下請けいじめ」として国会で

質問した時、大野さんの指示で、当時の通産省(現在の経産省)に

2回も説明に行った。

今回も経産省にとっては省勢拡大の絶好のチャンスか?

とかんぐった次第です。

私が参考にした2冊(たまたま本屋にあった)のうちの1つの著者は

現役の経産省の役人である。(岩本晃一さん)

しかし岩本さんはあまりプロパガンダはなく、技術者らしく事実を

事実として忠実に再現されていた。(もう1冊に比較して)

 

1(a) ドイツの基本構想

   モノ、サービスをINTER NETでつなぐこと(IT融合)

    工場現場     →         IOS、IOT                                     →             ITインフラ

    Physical      ←       Feedback、 人はモニター          ←             Cyber

         IOS  :Inter Net of Service

         IOT  :Inter Net of Things

       Feedbackの中身 :工場の設備に直接指示を含むADVICE情報など

     ・この工場をまずはドイツ国内に、そして最後は世界中に広める

       のが国家目標の1つ(PLUG and PRODUCE)

     ・国はこのサイバーの巨大インフラを設置する(標準化と秘密保護)

 

 

   (b)アメリカの基本構想

               製造業                 →            Cyber             ←             ICT

        機械設備メーカー      →            ネットと             ←            ビックデータ分析

        エンジニアリング        ←            製造の融合      ←         ソフトウエア

          → ドイツのアプローチ

        ← アメリカのアプローチ

 

 

  (c)Cyber Physical System (CPS)とは

     例えば

                 工場                                                         

           IOT 、カメラ、センサ                    

                         ↓     データの取り込み                                                           

               IT                            人と機械の最適作業工程のシミュレーションを行う

                         ↓                     まずコンピューター内で確認

                         ↓    機械と人にガイダンス        

                         ↓

                   工場                                                         

           IOT 、カメラ、センサ                

 

    

2.4.0の意味(ドイツ人が思っている産業革命    .0の意味はない)

 

  第1次産業革命  18世紀末、人力に代わり、水力、蒸気機関の動力源の導入

  第2次産業革命  20世紀の初め、電力導入、フォード方式導入、大量生産へ

  第3次産業革命  1970年代 ロボット化、機械化

  第4次産業革命  21世紀の初め世界中の工場がインターネットでつながる

  ・始めて自動車を造ったのはドイツ、精密機械もドイツ、それなのに・・・

    第4次ではイニシアティブをとり、デファクトスタンダードを造りたい

    というドイツの執念を感じる。

 

3.ドイツが目指す国家目標

(1)ドイツは経済発展しなければならない「宿命」にある。

      ドイツは東西ドイツ合併後「ヨーロッパの病院」と言われた

      時代が続いた。それを「自動車」「電機」「機械」「化学」の

     4分野の輸出拡大(主としてロシア及び発展途上国向け)に

     よって経済再生を果たした。(2011年以降)

     ・インダストリ4.0によって大企業、中小企業すべてを接続し、

       新しいValue Net Workを構築する。

     ・インダストリ4.0の下で使える機械、設備、工場を丸ごと輸出し、

       アフターサービスを含めトータルパッケージでPlug and Produce

       としてサービスする。そのためのインフラはドイツが管理する。

 

(2)人口減少、少子高齢化により潜在成長率に占める労働投入寄与度

      はマイナスになるため、技術革新で経済成長しなければならない。

      2001~2007年の経済成長率は1.6%、労働投入寄与度△0.2%

      技術進歩寄与度1.2%、資本投入寄与度0.8%、その他残差0.2%

      インダストリ4.0で年率1.7%の成長可能としている。

 

(3)人口減少、少子高齢化により熟練技能を持ったマイスターが減少

      している。彼らの有する技能を早く機械に伝承しなければならない。

      特に「すり合わせ技術」はビックデータを蓄積し、データベースとして

      分類し、CPSでシミュレーションを繰り返せば、この技術は機械に

      伝承可能としている。

     

      ひとり言:人類の暗黙知の技を明在化し発展していった。

                しかし、それには多くの苦難の道があった。

                CPSシミュレーションにも多くの苦難があるだろう。

 

(4)ドイツ国内では再生可能エネルギーの拡大により電力価格が

      上昇している。

      これが中小企業の輸出競争力をそぐといわれている。

      例えば年間消費電力2万kwhの標準工場のケースでは

      2000年には1kwhが6.05ユーロ、2013年には

      15.02ユーロと約2.48倍になった。

 

(5)コストの安い旧東欧諸国に製造業が移転する圧力がある。

      前政権は法人税を20%引き下げ、所得税を引き下げ、消費を

      喚起し、旧東欧への移転を防いだ。

 

(6)アジア新興国の台頭がドイツの地位を脅かしつつある。

      特に中国は最近輸出を開始し、ドイツと競合し始めている。

      特に発展途上国の市場で。

 

(7)米国の製造業が国内回帰を始めており、製造業の本格的

      競争力強化に取り組もうとしている。

      ドイツが最も危機感を持っているのはこれである。

      ネット技術を足がかりに米国企業がドイツの牙城を

      奪うのではないかという恐れである。

     そのためにも、早くインダストリ4.0のプラットフォームの形成

     とデファクトスタンダードを国を挙げて民間も一緒になって活動

     している。

 

少子高齢化は日本も同じである。

全企業に占める中小企業の割合もほぼ同じ95%である。

それなのに日本にはドイツの様な危機感は、特に

中小企業にはあまり感じられない。

なぜ?

 

昭和50年頃ドイツのジンデルフィンゲンのベンツの工場に

10日ほど滞在した折、ビールを飲みながらベンツの人間

と話したことがある。

「確かにベンツは世界で初めて自動車を造った。ところが

 フォードによって単品大量生産、コンベヤラインが敷かれ、

 車の造り方までこれを真似しなければ生産性で負けると自覚した。

 それから50年以上経過して、今度は市場にマッチする多品種生産

 をトヨタが1本のコンベヤライン上で実現した、

 それも不良が非常に少ない。」

ベンツは初めて車を造ったという誇りだけで、後はアメリカや日本

の真似ばかりしているとベンツマンは嘆いていた。

 

インダストリ4.0はオーダーメイドの車を他の量産車波のコストで

生産することを目指し、そのイニシアティブを取りたい様だ。

それには「モノづくり」は次の様に考えている様だ。

何がドイツと日本とは異なるか、岩本さんの説を紹介したい。

 

1850年頃

多品種の馬車、小量生産、マニアル生産

  1913年

      フォードT型、小品種大量生産始まる

  1950年頃

     大量化

  1980年頃

     多品種小量生産へ

  2000年頃

     グローバル化、多様化

  現在

     オーダーメイドへ

 

この考え方は余りにもオーダーメイドに拘っている様だ。

多品種限量生産は今後も続くと思う。

なぜならば発展途上国ではオーダーメイドが急激に拡大するとは

考えられないからである。

一方でホームメイドが広がるという考え方もあるが、

安全上の問題でホームメイドが規準をクリアするのは難しい。

ホームメイドは外形のみとなり。駆動部分はある程度のボリュームに

なるだろう。

 

4.ドイツという国の本質

 (1)ドイツは理系の国である。

     国立または国が認可した大学は409校、これが3種類に分けられる。

     ①University :総合大学、工科大学

     ②University for Applied Science :専門大学

     ③College of Art and Music :芸術音楽大学

     ・②の専門大学が全体の60%

     ・授業料は無料

     ・文科大学はない

 

 (2)ドイツ人は理論的であり、日本人よりももっと真面目で愚直である。

       日本人はドイツ人に比べて飽き易い。

       ドイツ人は日本人に比べて結果を重視する、日本人はプロセス重視。

 

 (3)ドイツ人は問題を先送りしない。

       日本人は何度も同じ過ちを繰り返す。例えばTV。

       ドイツでは現在家電はほとんど造っていない。

       負けたと自覚すると撤退する。家電、造船。

 

 (4)ドイツ人は日本人以上に国民が国のために一致団結しやすい。

       昔はヒトラー、今日は「欧州の病人」からの回帰、

       だからギリシヤを嫌う。

 

  (5)ドイツは欧州型民主主義(と自分達が呼んでいる)の理想を体現

        している国である。

        非正規も移民も同一労働同一賃金、同一の社会保障。

        日本は現実に合わせて妥協する美徳(?)があるが

        ドイツは正論を現実のものにして来たという自負がある。

 

5.ドイツ人の労働者の生産性は高い

    ・2012年のOECDの1人当たりのGDPでは

      ドイツ12位  41,231ドル      17%高い

      日本  18位  35,203ドル

    ・平均総実労働時間

      ドイツ  1,397時間      20%短い

      日本    1,745時間

      まず残業しない。金曜は半ドン。日曜は、商店街は閉まっている。

   ・製造の時間当たり賃金(2009年)

     ドイツ   3,342円(1ユーロ130円換算)  約1.47倍

     日本     2,269円

   ・人口と経済規模

     日本がドイツの1.5倍

   ・博士号取得者数(2009年)

     ドイツ 25,190人   約1.5倍  頭脳集団化へ

     日本   17,291人

 

6.ドイツの技術力は知れば知るほど底が深い。

    戦時中はドイツに多くを学んだ。

 

(近藤哲夫)

第88話 現場に出て感じる事(4)

2016年1月12日

 自分が現役の頃、自動車工場でも食品工場でも騒音が激しく鳴り響き、

それがまたバイタリティの発露の様に感じていた。

モーターの音、コンプレッサーの音、製品どうしのすり合う音、

コンベヤの音、等など余り気にしなかった。

50年位前、F.W.テイラー(I.Eの父と言われるアメリカ人)の伝記

を読んでいた時、「テイラーは工場に入る時、そこから出る音で、

そこの工場の生産性、機械効率の程度を理解していた。」

という文章に出会った。

良くメンテナンスされ、油が注されている機械の発する音は確かに

それらが行われていない機械の発する音に比べて滑らかな音の様に

聞こえてくる。

それ以来、同じ騒音でも良く保全されている機械設備の音は確かに

カロヤカであり、また雑音の激しい工場は良く注意して聞くと

余り保全されていないことに気付く様になった。

 

あるとき、鈴村さんと現場を歩いていると、製品どうしのすり合う音、

製品が箱に落下する音が聞こえてきた。

現在でもプレス工場やインジェクション工場では良く聞く音である。

その時はプレス工場であったが、鈴村さんはすぐにプレス課長を

呼んで言った。

「プレス品が悲鳴をあげている。原因は落下の高さだ。

落下の高さを少なくせよ。」

と指示した。

落下音を悲鳴と捉える鈴村さんの現場感覚には幾度となく感心

させられた。全くおそれいる。

大野さんは「良く見なさい」と見ることを強調された。

「目で見る管理」はその象徴である。

最近では「見える化」という言葉が流行しているが・・・。

テイラーや鈴村さんの領域に達する達人になると、「見る」だけ

でなく「聞く」「触る」といった五感で知覚する様になるかもしれない。

鉄の落下音を「悲鳴」と感じるには、自他同一化の感じ方の1つ

だと思う。

私はまだまだその足下にも及ばないが・・・。

 

五感で何かを感じるのは改善の始まりだと思う。

品質が良く、生産性の高い工場では、リズミカルな音と共に

作業者がリズミカルな作業を行っているのは確かである。

工場など集団で行動する場所では、あるリズムが必要なのか

もしれない。宇宙が1/fのリズムで動いている様に。

 

(近藤哲夫)

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